「あ〜さいっあく....っ!」


最近の夢見は頗る悪かった。高校時代を思い出し夜中に魘され、1度目を覚ますとまた寝付くことができない。そんな中でも仕事は休めず漸く金曜。やっと明日は待ち望んだ休みだけれど果たして熟睡できるのだろうか。寝ること自体が苦痛に感じてきてしまっている


「っ!!ごめんなさい!」


気はしっかりと保っていたけれど、思っていた以上にフラフラとした足取りで駅を歩いていたからか誰かにぶつかってしまった。早急に謝るとそこには聞き覚えのある声色で


「大丈夫ですよ、そちらこ....そ、え、なまえちゃん!?」

「は....っ、お、及川くん?」

「えっ、なんでここに...って顔色悪いよ、大丈夫?」

「あ、うん、ここ最寄駅で...ちょっと仕事慣れなくて、ね」


咄嗟に口から出た言葉は嘘だった、まさか昔の夢を見てその頃の貴方との関係で魘されていますだなんて言えるだろうか、私にそんな勇気はない。そして本人にまさかこんな広い都会で会うとはどんな偶然だろうか。及川くんは何を思っているのか、難しそうな顔をして私を見つめている


「なに...?」

「なまえちゃん、この前の同窓会で俺が言ったこと覚えてる?」

「えっ、......ちょっと待って、えーっと...」


疲れた頭でなんとか思い出そうと記憶を巡らすけれど、あと少しのところで肝心な部分が出てこない。及川くんがチャラい感じで髪型を褒めてくれたことは覚えているのに、寝不足のせいもあって私の頭はとんだポンコツになってしまったのだろうか。そう考えている内に体調がどんどん悪くなる


「なまえちゃん...俺の家すぐ近くだからちょっと寄って行きなよ、そんな顔色悪いのに1人で帰せないからさ」

「いや、私の家もすぐ近くだから...もし方向が同じなら一緒に帰ってもらってもいいかな...?」


流石に今の自分の体調を考えると一人で歩いていては途中で倒れてしまいそうだった。会社の人以外に知り合いもいない、ここで頼れるのは偶然出会った及川くんしかいないんだ


「家、どっち」

「ここから西側のコンビニわかる?そこから一本裏に入って角のとこ」

「...取り敢えず行こうか」

「......?うん」


一瞬だけれど及川くんの表情が動揺したように変わった気がした。歩くこと5分、倒れることなくマンションに着くと漸く及川くんが動揺した理由がわかった


「...俺の住んでるとこ、この隣なんだよね」

「は......?」


少しだけ止んでいた頭痛が、また酷く痛み出した気がした




2016.05.07