「何飲む?」
「じゃあコーヒー貰おうかな」
「あれ、苦いの克服したの」
「んぐ....う、じゃあカフェオレで...」
仮にも元カノの目の前で格好つける必要がどこにあるのか。呆れたように笑えば彼が拗ねるところまで想像通りで、それがおかしくてまた笑ってしまった
「はぁ...まさか隣のマンションだなんて」
「ほんとびっくり。っていうか引っ越してきて3ヶ月も見かけなかったのも凄いね」
「あ、そうだ、もう体調は大丈夫なの!?俺帰るよ!」
「あー...なんか家に着いたらちょっと良くなったみたい?」
それは本当のことだけれど、散々寄っていきたい!と喚いていたのにこうもあっさりと帰ると言われるのも拍子抜けしてしまう
「ほら...なんていうか、女の子の部屋に男1人で上がり込むとか...ちょっとまずいじゃん?」
「えっ送り狼になる気?」
「そんなつもりは全く...あ、ごめん、ほんとはちょっとだけ」
「あはは、今更元カノに何かする気もないでしょ?」
笑って言ったその言葉に、胸のどこかがチクリと痛む気がした。どうして痛むのかなんてよくわからず、その痛みも一瞬で消え去ってしまって考えるのを止めた
「こっちの気も知らないで...もう...」
「えっなに?」
「別に〜...それで、なまえちゃんの体調が悪くなった本当の原因は何?」
ぐさりと訝しげな視線が刺さる。もう過去のことなのだと消し去ることもできない、その出来事が後に恋愛に消極的になる鎖となっているのも感じていた。けれどここでそれを口にしてしまえば目の前にいるこの人は責任を感じてしまうだろう。だから私は肯定も否定も、何も口にすることはできない。"元"カレのために
「何も言わないっていうのはなしね」
「だって、そんなの、及川くんに関係ないもん」
「俺には関係あるんだよ」
「なん、で...」
だってね、と続けられた言葉が媚薬のように頭がくらくらとする。どうかお願いだからこれ以上私の胸を締め付けるのはやめて
「なまえは今でも俺にとって大切な人だから」
2016.05.12
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