及川くんの言ったことが信じられなくて、それでも嘘ではないその言葉が胸に突き刺さって思考が止まる


「た...大切な人って、なんで、」

「あの時俺が納得してなかったこと、なまえが一番よくわかってるはずだよ」


頭に蘇るのは別れ際の泣きそうな徹の顔。自分から別れを切り出しておいて泣き出した私を宥めるように優しく撫でる手。今目の前にいる及川くんも、少し大人びたけれど同じように泣きそうな顔をしている。自分の頭で咀嚼するのにも随分と時間がかかってしまった。あぁ、今思い出すだけでも後悔しかないんだ


「これから話すこと、及川くんのこと傷つけるかもしれない...」

「いいよ、全部受け止めるよ...ゆっくりでいいからちゃんと話して」


本当は岩泉くんや美月ちゃんから聞いて知っているのかもしれないし、2人は話していないのかもしれない。どちらかもわからないけれど、私が前に進むためにも、この夢を終わらせるためにも、そして及川くんのために...自らの口で説明しなくてはならない


「最近夢を見るの...及川くんと付き合っていた頃の」

「夢...?」

「うん、本当に及川くんのこと好きだったし楽しかった。あの頃に戻れたらって思うこともあった。だけどね、それだけじゃないんだ」




もしかしたら及川くんは気づいていたかもしれないけど、ファンの子たちからは良く思われてなくて。私も反抗的な態度取ってたから良くなかったのかもしれないけど虐めみたいな感じのを受けて...でも噂で元カノさんもずっと受けてたって聞いてたから、及川くんと付き合うのならこのくらい我慢しなくちゃって思ってたの。下駄箱にゴミが入っていても、呼び出されて殴られても、隠せる部分にたくさん痣ができても、及川くんには迷惑かけちゃダメだって、私が我慢すればいいんだって...




「夢で見たのはここまで...なんだけど...」


顔を上げた先にはより一層泣きそうな顔をした及川くんがいて先を言い淀む。きっと傷つけた。私の行いのせいで


「なまえちゃん...ごめん、俺のせいで...」

「ううん...及川くんのせいじゃないんだ、私が弱くて誰にも頼れなくて、でもここまで話したことまでなら我慢できたんだ」





夢には出てこなかったその続き、それを口にしなければいけないと思うと涙が込み上げてくる






ーあんたが別れてくれないなら及川さんのこと傷つけちゃおうかな



歪んだ愛情の矛先が彼に向いた



2016.05.18