「俺の好きな人、みょうじだから」


ここまで来るのに何ヶ月経っただろう。そもそものきっかけなんてあやふやで、ただの部活のマネージャーと部員という関係だったはずが、彼女の仕事に対する一生懸命さと、先輩にからかわれても気づかず純粋に受け取ってしまうような天然さと、いつでも周りを気にかける優しさにいつしか惹かれていっていたのだと思う


「赤葦!手見せて!」


誰にも気づかれることなく後でテーピングでもしようかと思っていると、ほんの少しの異変に気づいた彼女


「赤葦の手はみんなの手でもあるから...ほんのちょっとの痛みでも我慢しないで。悪化させたら意味ないでしょ?」


テーピングするためだとわかっているのに、彼女にぎゅっと握られた手に熱がこもるようになった。それを隠すようにたまに意地の悪いことを言うのだけど、またそれに引っかかって笑い、その笑顔にぎゅっと胸が締め付けられる

(なんか、抱きしめたい)

その気持ちが抑えられなくなったのも、2年生に進級してクラスが一緒になってからだ。このチャンスをどうにかものにしたかった。隣の席になるために目の悪い友達にわざわざ声をかけ席を交換してみたり、少しだけその肌に触れてみたり、授業中眠そうな横顔をこっそり見つめてみたり。どんなことをしても彼女への思いは募っていくばかりだった


「ちょっとだけ、赤葦の、好きな人って......誰かなって、気になって」


恥ずかしそうなのに泣きそうなその表情にくらりとした。可愛いし、狡い、なんて思う前にその場から逃げ出してしまったけれど、真面目な彼女のことだ、きっと部活には来るんだろう


(もう言ってもいいよな...)


ぽっかりと空いてしまった隣の席を見つめて、自分の思いを告げたら彼女はどんな反応をするのだろうと楽しみになった


勘違いしないでほしい。俺は口に出さないだけで特別他の男子と変わらないただの男だと。触れたいし、愛でたいし、自分のものにしたい。ただあんまりがっつくと驚くだろうからみょうじに合わせてゆっくり進んであげるね


(だからイエス以外の返事は聞きたくないな)




2016.03.13