出逢い



澄み切った空みたいな人だ。

―――幼いながらに、そう、思った。










「で。こいつを試衛館で引き取るってのか、近藤さん」
「おぉそうだ!また賑やかになるな!」

そう笑う近藤さんにため息をつきつつ、近藤さんの着物を掴み後ろに隠れる子どもを見た。

年の頃は十前後だろうか。
きめ細やかな白皙の肌に手足、首に巻かれた包帯がひどく痛々しい。
自分をじっと見上げてくる顔は――端正の一言で。
見たことのない朱金のような瞳は、目を反らさせない何かを持っていた。

「…俺は土方。土方歳三だ」
「……高崎真尋です」


〜・〜・〜


近藤さんが新たに内弟子として引き取ると決めた真尋は、厄介極まりない過去を持っているようだ。

「親も記憶もない捨て子ぉ!?」

俺たちは今隣町から試衛館への帰路についている。
怪我をしている真尋は俺に背負われている。
自分で歩くから、と嫌がる真尋を無理矢理背負った形だ。
怪我や精神的なものもあるのだろう、先程から小さな寝息が聞こえる。
歩きながら近藤さんから、真尋のことを聞いた。


俺達2人は近藤さんの旧知である隣町の商人の元を訪ねていた。
途中、別行動をとった俺のいない間に真尋と出会ったらしい。

「この子はなぁ、一週間前ぐらいに血だらけの状態で倒れていたようだ」

それを発見したのが、近藤さんの友人。
慌てて手当てをし、意識が戻るのを待った。

「意識が戻ったのは数日前だが…名前と自分には両親も身寄りも無いことしか話さないらしくてなぁ」

ただ両親は、死んだ、と。
それだけを述べる少年に困り果てた友人は、訪ねてきた近藤さんに相談したようだ。

「あいつは、『全然喋らないし、笑わない無愛想な子供だ』とか言ってたがな、俺はそう思わなかったんだよ」

そう笑いながら近藤さんは、真尋の頭を撫でる。

良い目をしている。

それが第一印象だと近藤さんは言う。

「あれは強かで純粋な目だ」
「そうかい、近藤さんがそう言うならそうなんだろうな」

俺はそう笑いながら、真尋を背負い直す。

「でも近藤さん。何でわざわざ内弟子として引き取るんだ?」

内弟子とは、住み込みで家事などを手伝いながら芸事を学ぶ弟子のことだ。
つまり、真尋は天然理心流に入門するということで……。

「剣術をしていたらしいんだ。倒れていたこの子の横には一本の真剣があってな。道場の話をしたら随分興味を持ってくれたよ」
「なるほどな……でも近藤さん」

差し迫った問題を一つ忘れてないか?
俺は咳払いをして近藤さんを見る。

「惣次郎はどうするんだ?」

既に試衛館には内弟子がいる。
――沖田惣次郎。
近藤さん近藤さんと真っ直ぐに近藤さんを慕い、何故か俺には変につっかかってくる生意気盛りの少年。
なのに剣の腕はそんじょそこらじゃ到底太刀打ち出来ないのが、腑に落ちない。
そんな性格に一癖も二癖もある彼とこいつは上手くやっていけるのだろうか。
しかし近藤さんは、そんなことを気にする様子無く。

「惣次郎も兄弟が出来たみたいで喜ぶだろう!!」

……俺は心配でたまらなくなった。


- 1/45-

*前 | 次#

戻る/しおり
ALICE+