1-2




――…ろ
―――…なさい



まだ眠いよ…。



「…起きろ」


…分かったよ、父さん。


「誰が父さんだ」
「!」

聞き慣れない声に一気に眠気がさめる。
目を開くと、視界いっぱいに眉間に皺が寄った青年が飛び込んできた。

「ひじ…か…たさん?」
「あぁそうだ。道場に着いたから起こしたんだが…大丈夫か?」

辺りを見回すと、初めて見る風景。
自分の今の状況を思い出す。

「大丈夫です…ありがとうございます」

そう礼を言うと、少し年季の入った看板が目に入った。

天然理心流 試衛館道場。

奥から竹刀を打ち交わす音が聞こえる。
今思えば自分でも驚く程の展開だったが、今日からここが自分の生活の場になるのだ。
何故そうなったのか、と思い返せば全ては――

「ここが試衛館だ!貧乏道場だが、皆真剣に稽古している!」

――この男。近藤勇。
彼とは今日会ったばかりだが、少しの間話しただけで見事に信頼の情を抱いてしまった。
そうしてこの人の元でなら、と内弟子の話を了承したのだ。
行き場の無かった自分は、彼には感謝してもしきれない。

「誠実な感じのする道場ですね」

そうありのままに思ったことを口に出せば、彼はにこっと笑い、ありがとう、と頭を撫でてくれた。
そのひどく安心できる笑顔を見ると、こちらも笑顔になる。

「さて、それでは中に入るとするか!」
「お、お邪魔します」
「馬鹿、今日からお前の家だろうが」
「痛いっ」

……土方さんは乱暴な人みたいだ。


〜・〜・〜


これから世話になるであろう人々に簡単に挨拶をすませた真尋は、近藤と共に道場内を見て回っていた。
怪我をしている真尋は完治までは道場に出ず、家事手伝いだけとなった。
後で土方が、怪我によく効く薬を持ってきてくれるらしい。

「うーんあいつはどこにいるんだ?」

近藤は先程から何かを探すように周りを見ている。

「何を探してるんですか?」
「惣次郎だよ」
「沖田…惣次郎くん」

既に内弟子として道場に入っている自分と同い年ぐらいの少年。
実質自分が一番世話になるのはその少年だろうと思うと、真尋は少し緊張してきた。
そんな真尋を知ってか近藤は笑いながら付け足す。

「良い子だよ、あの子は。君と同じぐらいだがうちの門下生の中じゃ実力は一番だ!…まぁ悪戯好きではあるがな」

(…そういえば土方さんが『あいつに何を言われても相手にするな』とか言ってたっけ)

そんな子と自分は上手くやっていけるのだろうか。
同じ年頃の子供を知らない真尋は、不安になった。

(出来たらもう少し会いたくない…)

しかし、そんな真尋の願いも虚しく――

「お帰りなさい!近藤さん!」

少し高めの少年の声が響いた。



- 2/45-

*前 | 次#

戻る/しおり
ALICE+