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気持ちが落ち着いた僕は、近藤さんと2人、道場の入口に腰掛けていた。
兄弟子たちの件で泣いていた時よりも泣きじゃくった僕は、少し居心地の悪さを感じていた。

「惣次郎は真尋の事をどう思っている?」

真尋くん…。
最近よく喋りかけてくるようになった子。
かなり冷たくしているはずの僕に、彼は笑顔で話し掛けてくる。

「よく…分かりません」

本当によく分からない。
考えてもみたら僕は、彼に嫉妬心ばかりを向け、彼の事を知ろうともしていなかった。

「では…最初はどう思った?」

僕は初めて真尋くんに会った時の事を思い出す。

「大人しい…綺麗な子……だなって思いました。瞳の色も見たこと無かったし…」
「他には?」
「他には……そういえば僕と同い年って聞いて…」

初めて知り合った同い年の子供。
まず一番に沸き上がった思いは――

「……嬉しかった」

そうだ、嬉しかった。

「嬉しくて…でもどうしていいか分からなくて」

どう接したらいいか分からず、素っ気ない態度しかとれなくて。
逆に『悪い所があったら言って下さい』なんて気を遣わせてしまって。
それでも『怒っている訳じゃない』としか言えなかった自分が、妙に腹立たらしくて。

「…仲良くなりたい。そう思いました」

それがいつしか幼稚な独占欲に負けて。
随分と最低な態度をとってしまったと思う。
今思えば、彼だって見ず知らずの大人ばかりの所に引き取られ、心細かっただろう。
彼にとってもまた、自分は唯一の同い年の子供なのだ。
それに気付いた僕は、またも激しい後悔に襲われた。

「ならば、先程の言葉は嘘だな?」

近藤さんの口調はどこまでも優しいものだった。
僕はこくりと頷く。
それを見た近藤さんは、笑いながら教えてくれた。

「彼を内弟子に、と決めたのはな。勿論身寄りの無い彼を助けてあげたいという気持ちもあったが、何よりお前のことがあったからだよ」
「え?」
「お前は幼い頃からここに預けられて、随分淋しい思いをさせてしまったと思う。周りの子供たちが遊んでいる間も仕事ばかりさせてなぁ…」
「………」
「だから真尋とは兄弟の様になってくれれば、と思ったんだ」

僕は恥ずかしくなった。
自分のことばかりで、二人に悲しい思いばかりさせていたことが。

「真尋に…謝れるな?」
「はい…」

今までのこと、全部謝ろう。
今なら、言える気がする。

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