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「俺が部屋でぼーっとしてるときに、近藤さんが来たんだ」
突然開けられた襖。
入ってきたのは大柄のいかつくて……優しさが滲み出るような笑顔の男。
『はじめまして、だな。高崎真尋君』
『!?』
『俺はここの人間の友人の近藤勇だ』
『……はじめまして』
私が居住まいを正すと、近藤さんは向かいに座る。
いくつか世間話をした後、「どうしてここにいるんだい」と尋ねられた。
私はまたか、とため息をつきながらもう何度も話した話をした。
『そうか…そんなことが…』
『………』
近藤さんはうんうんと頷きながら、涙ぐむ。
私はそれをどこか冷めた目で見ていた。
どうせ「可哀想に」「辛かったね」そんな事を言うのだろう。
大人なんて皆一緒だ。
同情なんていらない。
上辺だけの言葉を並べて、取り繕って。
目を見れば分かる。
「厄介者」として自分を見てるんだ。皆。
どうして自分がこんな目に合わないといけないのか。
そんな醜い感情が心に渦巻き、私は思わず俯く。
そうして聞こえてきた言葉は―――
『…よく頑張ったな』
――目を見開いた。
ずっと、求めていたものが、聞こえたから。
近藤さんの暖かい…優しい手が私の頭を撫でる。
……たったそれだけのことだったけれど。
私の頑なだった心を溶かすには、十分すぎる一言だった。
『…っ』
気が付けば涙が溢れ出ていた。
とめどなく流れる涙は、自分ではどうしようもなく。
私はとうとう声を上げて泣き出した。
近藤さんは子供をあやすようにただ私を抱き締めてくれた。
「近藤さんの言葉は本当に嬉しかったんだ」
「…………」
「ずっと緊張してたんだろうなぁ…もういいんだよ、って言われたかったんだと思う」
私は両手を顔の前で交差する。
……思わずこみあげてきた涙を隠すために。
沖田くんは何も言わない。
「結局近藤さんは俺が泣き止むまでそうしてくれてたよ」
そして、私が刀を持っていたという話を聞いたのだろう、剣術をやっているのかと聞いてきた。
私が頷くと、ぱあっと顔が明るくなる。
『私は家が隣町の道場でなぁ』
元々父上から剣術を学んでいた私は、その話に興味を持った。
勿論剣の稽古が好きだったこともある。
「でも一番に思ったのは…この人が教える剣が知りたい。だった」
そうして話は思いがけない方向に進み、私は内弟子として試衛館にお世話になることが決まった。
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