5−3



構えた惣次郎は、それだけで強いのだと分かる。
目つき、構えどれをとっても今までとは違った。
自然と背筋が伸びる。
そして――

「楽しそうだね、真尋」
「あ、分かる?」

そう楽しい。
何が、とは言葉にしにくいけど、気持ち良い高揚感が身体を満たす。
それは惣次郎も同じなのだろうか――彼もまた、その口許にえもいわれぬ笑みを浮かべていた。

一礼をし、一歩前へ出る。
場内は衣擦れの音しかしなかった。


「始め!!」

近藤さんの声がした刹那、間合いをつめてくる惣次郎。
即座に距離をとった私は、続く左からの打撃をかわす。
伸びた腕を惣次郎が引き戻すのと同時に、私は少し身を屈ませ下段からの攻撃に転ずる。
しかし惣次郎は、それを容易く受けとめる。

こう言っては失礼だが――明らかに先程迄とは質が違う。
全力で打ち込み全力で防ぐ。
そうしてやっと何とか渡り合えているぐらいだ。

(強い…!)

私はとにかく夢中に腕を振るった。


〜・〜・〜


木刀を打ち交わす、小気味いい音が響く。

「おいおい、凄い何てもんじゃねぇだろ……」

音の正体は目の前の試合で、ここにいる誰もが固唾を呑んでそれを見ている。
視線の先には先程から激しい攻防を繰り広げている、僅か十一の子どもたち。
二人の剣技は、舌を巻くどころでは無かった。

「まさかここまでやるとはねぇ…」

隣から源さんの感歎混じりの声がする。
俺もその言葉には心から同意する。
“あの”惣次郎とほぼ互角に戦えるなんぞ、誰が想像出来ただろうか。
それに加えて。

「どんだけ楽しそうな顔してやがんだ…」

見れば惣次郎も真尋も笑いながら打ち合いをしている。
その笑みは決して相手を侮ったものではなく、ただ純粋に勝負を楽しんでいる……生き生きとしたものだった。

「それにしても…いつまでやりやがるつもりだ?」

始まってからもうすぐ一刻になろうという所。
さすがに両者疲れが見え始め、動きが少し鈍くなっている。

勝敗は一瞬だった。

惣次郎が繰り出した上段からの攻撃を真尋が防ぐ。
そしてそれはそのまま鍔迫り合いとなった。
今日初めてのことである。
しばらく力が拮抗している様に見えたが……

真尋の木刀が床に落ちる。
だが即座に真尋は重心を落とし、足を蹴り上げようとするのが見えた。

「そこまで!」

が、近藤さんの声が響くと真尋は我に返ったように体勢を崩した。

誰もが一息ついた瞬間だった。
ただ二人の息切れの音だけが聞こえていた。


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