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「そうかそうか!なるほどな!」

近藤に声を掛けられた真尋は、自分が道場に居た訳と先程見た沖田の話をした。

「惣次郎に勝てる奴は、弟子の中にはいないんだ。父上も『十年に一度の逸材だ!』とか言ってな。とにかく将来が楽しみな子だ」

そう語る近藤の顔は、まるで自分の事のように嬉しそうで。
彼が沖田を大切にしていることが分かった。

「近藤さんは沖田くんのことが大切なんですね」
「あいつはなぁ…歳の離れた弟みたいなもんだよ」

(そういえば、沖田くんも近藤さんと話す時は、眩しいくらいの笑顔だよなぁ)

二人の笑顔から、互いを大切に思っていることが感じられる。
そのことが何だか微笑ましくなって、真尋もまた頬を緩ませた。

「して、真尋。先程稽古がしたいと言っていたが…腕は大丈夫なのか?」
「左腕はまだ完治してないんですけど…竹刀ぐらいなら右腕だけでも振れるかな、と思ったんです。筋力も落ちてしまいますし…」

そして何より、目の前であんなものを見せられては黙っていることは出来ない――それが本音だった。

「なるほど。では俺が見てあげよう」
「いいんですか!?」

元々一人でやるつもりだった真尋は、近藤の申し出に驚く。

「いいに決まってるじゃないか!!待ってなさい、今竹刀を持ってこよう」

そう言って近藤は真尋に背を向ける。
その背中に真尋は礼を言った。

「ありがとうございます!」


〜・〜・〜


久しぶりの竹刀の感覚。
それでも自然と手に馴染んだソレは、高ぶっていた私の気を落ち着かせた。

す、と大きく息を吸い込み腕を上げる。
感じる近藤さんの視線は誠実そのもので、見てもらえるという嬉しさを助長させる。

そうして私は、一本一本を丁寧に振った。


〜・〜・〜


「いやいや見事なものだったよ」
「ありがとうございます!」

久々の素振りに療養中の体がついていける訳なく。
私はあれから数十回の振りで腕の限界がきてしまった。
そんな私に近藤さんは冷たいお茶を煎れてくれ、今は縁側に腰をかけている。

「片腕とだけあって、少し軸がブレる時もあったが、その歳でそこまで出来るとは思わなかったよ」

そう笑い私の頭を撫でてくれる近藤さんの手は大きく、私もつられて笑ってしまう。

「しかし惣次郎といい、真尋といい…うちには凄い子供がいるなぁ」
「俺も…ですか?」
「勿論だとも!惣次郎と手合わせをしたら良い試合になると思うぞ!」

……正直自分が、大人たち相手に、あの圧倒的な強さを持つ彼と良い試合が出来るなんて思えない。
しかし、近藤さんの顔を見るとそれが本音というのが分かる。
そんな近藤さんに反論するのも何となく悪い気がして、気恥ずかしさを覚えながら私は言葉を濁した。

「剣術は何処に習いに行ってたんだい?」
「いえ…何処かに習いに行ってた訳でなく、父に教えて貰っていたんです」

ここに来る前の私は、両親と共に各地を転々としていた。
理由は分からない。
聞いても両親は教えてくれなかった。
そうした生活の中で、父は「強くなりなさい」と毎日の様に口に出しながら、私に剣術を教えてくれた。

「そうか…ならば、お父上は凄腕の剣客だったのだろうな」

そう言って近藤さんは、私の頭を撫でる訳ではなく、ただ手を置いた。
急に黙ってしまった私に気を遣ってくれたんだろう。
その優しい手と気持ちに、不意に目頭が熱くなった。

「ありがとう…ございます」

多分私は泣き笑いのような顔をしていると思う。
近藤さんに――父の面影を重ねていると気付いたから。



そんな私たちを、無表情に見つめる瞳があったことを、私は知らなかった。



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