初めの一歩



「おはようございます、沖田くん!」
「…おはよう。早いね」

あれから一週間。
順調に怪我も回復している真尋は、内弟子の仕事にも慣れてきたようで、毎日早くから掃除をしている。
沖田に「さん付けは嫌」と言われて以来、迷いに迷ったものの「沖田くん」に落ち着いたようだ。
沖田との関係は最初の頃に比べればかなりましだが、温かいものではない。
相変わらず沖田の言葉・態度は冷たく、彼と話すときはいつも気を張っていた。

「じゃあ僕は朝稽古に行くから」

そう告げ沖田はすぐに道場へと向かう。
ふぅ、と体の力が抜けるのが分かった。

「道場かー…」

内弟子として引き取られたものの、怪我のこともあり未だ竹刀すら握っていない。
怪我の方はかなり治り、正直な所あとは刀で斬られた左腕だけだ。
この左腕もあと一週間もすれば完治するらしい。

「そろそろ体も鈍りきってるしなー」

少しの思案のあと、真尋は立ち上がる。
静かな足取りで沖田のあとを追い掛けた。


〜・〜・〜


「うわすごー…」

外から道場を覗いた真尋から出たのは、感嘆の一言。
弟子の数は多くはないものの、道場内は活気付いていた。
天然理心流は戦場での立ち回りを考えた超実践的剣術である。
竹刀での稽古もあることにはあるが、真剣の重さを想定しての木刀の使用が原則だ。
よって竹刀稽古より迫力のある稽古に思われるのだが……先程の真尋の言葉は別の事に対するものだった。
彼女の目線の先には――

沖田惣次郎。

大の大人…と言って過言ではないだろう男たちの中にただ一人、年端もいかぬ少年がいる。
どこか異質な存在に感じられる彼だが、木刀を持った彼は一際浮いていた。

目が――離せない。

一対三の打ち合い。
明らか不利の状況だが、彼の瞳には一切の焦り無く、ただ相手を見据えていた。
そうして流れるような剣筋で、一本…また一本。
勝負は一瞬でついた。

息を呑む。

倒れこむ大人たちの真ん中に立っている少年は、紛れもなく強かった。

「凄いなぁ…」

口から出るのは称賛の言葉ばかり。

「手合わせしてみたいかも……」

そんなことを真尋が呟いていると、後ろから声がした。

「真尋?こんな所でどうしたんだ?」
「近藤さん!」


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