かわされた告白

あて先不明で戻ってきた手紙を、私はクシャリと握り潰した。





彼と出会ったのは青い青い海の砂浜。貝殻のマークが印象的な高級ホテルのプライベートビーチだった。
俗にいう傷心旅行。結婚まで考えていた彼に浮気をされた私は彼に別れを告げ、その足でイタリア行きの飛行機に飛び乗った。
馬鹿みたいな考え無しな行動だったが、運よく幼馴染の友達が経営してるらしいそのホテルにタダ同然に泊れたのは幸いだった。幼馴染万歳だ。

日本のカツカツした時間の流れとは違い、ビーチでのゆっくりとした時間の流れは私の心にゆとりを与えてくれた。ぽかぽかとした暖かい空気と、地中海からの潮の香り。もういっそイタリアに住んでしまってもいいかもしれないな。なんてそんなことを思いながら、ちいさく欠伸を零す。


「Hai tempo libero?」


呑気にしていた私に突然かけられたイタリア語。反応が一瞬遅れたことに、内心で舌打ちしながら私は声の主を見る。太陽と同方向にいたため顔は影になっていたが、金色の細い髪がキラキラと綺麗に光っていた。

「あー…Mi dispiace. Che cosa vuole da me?」

ごめんなさい、私に何か用ですか。
そう聞いた私の言葉に彼は少し驚いたような雰囲気を漂わせて、そして再度口を開いた。

「なーんだ、イタリア語喋れんの?」

どうやら驚くのは私の番だったらしい。出てきたのは流暢な日本語。唖然とする私をよそに彼は太陽私のすぐ隣の席に座った。私は正直なにがなんだかわからない。金髪の知り合いなんていただろうか。いや、せいぜい居たとしても銀髪までだ。

「ちょっと、王子無視するとかありえねーんだけど」
「はあ…すいません」

思わず誤れば、「ししっいいよ王子優しーから」と笑う彼にいい年して王子ってなんだと突っ込みたくなる。けれど綺麗な金色の髪に乗せているものを見て私は表情を硬くする。銀色のそれは彼の髪に負けずと輝いていて。そういえばここは高級ホテルだったか、と思い出す。

「…ほんもの?」
「うしし♪」

私の言葉に、楽しそうに特徴的な笑い方で笑う彼は一体何を思っていたのだろうか。

katharsis