鮮やかで美しい最期を
ぱちくりと目を瞬かせ、周りを見る。いつも通りの学校なのに何もかもが違っていた。
割れた窓ガラスに、クレーターでガタガタの床。壁には赤い斑点がまるで模様のように飾られる。胸元をベットリと赤い絵の具で染める同級生と先生。そして一人の男の子。

「フーアーユー?」

拙い英語で問いかける。キラキラとした金髪が私の視界を支配していた。こちらを振り向けば、彼が作り出した空気の波で金色がまた煌めく。

「Shi-shi-shi Your pronunciation is rubbish.」

耳に軽やかな音が響き、私の思考は彼で一杯になる。彼の動きの一つ一つに私の感覚が奪われていくようだった。何処からか取り出された銀色は、彼の金と白い肌に良く映える。
ゾワリと肌を駆ける波は、きっと恐ろしさよりも美しさ故で。揺らめく金糸の隙間から彼のラピスラズリが煌めいた。

「綺麗ね」

思わず呟いた私に、彼はまた特徴的に笑ってみせる。何か呟いたみたいだったけれど、流暢なその言葉はやっぱり私にはわからない。だけど、こんな綺麗なものを最期に見れるのは素敵な事ね。
クルクルと銀を操って面白そうに私を見る彼に、少しだけ近付いてみる。彼はやっぱり口角を上げたまま。どうせなら、と彼に近付いてみることにした。何処か夢心地なのはきっと彼の美しさが現実離れしているから。どれだけ近付いても、美しさは違わなくて。陶器のような白い肌は日本人が欲してやまないものなのだろう。そんな恐れ多い事、今まで考えた事すら恥じるべきだとそう思った。

「フーアーユー」

もう一度だけ、繰り返す。彼との距離は恋人くらい近い。恋人なんてまだいた事ないのだけれど。

「Belphegor」

その呟きは私の鼓膜を揺さぶって。キラリとまたラピスラズリが私を覗く。黄金が揺れて、真っ白な歯が真っ赤な唇を割って出る。ああきっとこれが私の最期。

「さようなら。ベルフェゴール。美しい私の死神様」

銀が私を貫いて、ラピスラズリが赤く染まった。
katharsis