死後も共に
 キイ、とブランコが小さく音を立てた。ゴミや死体が放棄されたその場所は、流星街を彷彿とさせる。ここがこんな様子なのは、この場にいる唯一が流星街の出身だからだろうか。
 もう少し穏やかな場所かと思ってたなあ。
 手持ち無沙汰にブランコに座りながら、幻影旅団、初期メンバーにして元8番の名前は、ぼんやりと曇り空を見上げる。ここにきてどれくらいになっただろうか。空腹も、眠気も何も、感じない。

「退屈だなあ」

 小さく呟いた言葉は、誰の耳にも届くことなく溶けて消えていった。何も感じず、何もない。
 ここは死後の世界と生の世界の狭間であった。名前の念能力によって作られた、どこでもあってどこでもない場所。ここに足を踏み入れるのは名前が必要としている人間だけ。
 けれど彼らがここに足を踏み入れるのはまだ先でいい。私の大切なあなたたちが来るのはもっともっと先がいい。
 うん、と悪事を働いて、それで偶に慈善活動をして。そしていつか、その先で皆が集まったなら、そしたら皆で攻めにいこう。地獄だろうと天国だろうと、全部で最後の大暴れをしよう。

「そう、思っていたのになあ」

 上る炎は死者の証。感じる気配は私が幼い頃から知っている大男のもの。

「どうして来ちゃうの、ウボォ」
「…おいおい、名前ってことは」
「死後の世界の手前、私の念の世界だよ」

 首をコキ、と鳴らしながら姿を現した大男、ウボォーギンは笑って言う。

「お前がいるなら死んだ後も退屈しねえな」
「なんで死んじゃうの、もっと後に来てほしかったのに」

 頬を膨らませる名前に、ウボォーギンはまた大きく笑って名前の頭を大雑把に撫でた。

「なんで死んだの」
「あー」

 言いにくそうに頬をかく。名前は目の前の大男に聞こえない程度に息をこぼした。この大男が殺されたなんて信じられないが、ウボォーギンがここにいるのだ。信じるしかない。

「楽しかった?」
「ああ…でも物足りねえ」
「皆が来たら、どこにでもいけるよ。また暴れよう?」

 おう、とウボォーギンが返事をした。その直後、大きな音が鳴り響く。ちぐはぐながらも、にぎやかしいそれはやってきたばかりのウボォーギンへ送られるように。曇りの空はいつの間にか、炎のように真っ赤に染まる。

「なんだ?」
「同じ場所で人がたくさん死んでる。花火みたい」
「…おいおい!団長達か!!」
「うん。きっと」
「はっはっは!!!」

 ここは私達だけの世界。あちらの世界とこちらの世界の狭間。
 空に上がる炎を眺めながら、私達は笑いあう。みんなが揃うのが待ち遠しい。けれどずっと先がいい。

「もう!!ウボォといい!なんで来ちゃうのパクのバカ」
「…ここは」
「私の念の世界。パクのバカ」
「初めに死んだあなたにだけは言われたくないわ」


ーーー
長編にでもしたいなと思ってた設定でちょっとだけ。
旅団初期メンバー、元ナンバー8。
特質系能力者。
変化することが嫌いな性質で、旅団員が死んでばらばらになるのが嫌だったので、死後の世界を作り出した。魂を集めているのかもしれないし、世界に残ってる記憶を集めて人の形にしてるのかもしれない。その辺は能力者もわかってない。
katharsis