01


人間いつかは終りが来る。

それが早いか遅いかの違い。

どうせ終りが来るなら、未練は残したくない。

後悔はしたくない。

最期の最後まで楽しみたい。

そして“私の人生、最高だったな!”って言いたい。

――そう、思った。




elpis phoos



ここは榊先生の豪華客船。
これから全国男子中学テニス部選抜メンバーのサバイバル合宿に向かう所だ。
なぜ、無関係の私がこの船に乗ってるかと言うと、今日私は他の船で南の島へ旅行に行く予定だった。でも、チケットの手配ミスで困っている所に、榊先生がこの船に乗せてくれた。
私の他にも一緒に乗ってる子達が居る。船長の娘さんとその友達。2人も私と同じ理由でこの船に乗っている。2人と比べて、私は氷帝の生徒だから、まだ知ってる顔も多い。でも2人は周り皆知らない人だらけ。心細いと思って私は彼女達に話し掛けた。

「今日は災難だったね?あなた達も南の島に?」
「あっ、はい。そうです」
「でも、こんな豪華客船にのれてラッキーですよ!」
「ははっ、そうかもね!あっ、自己紹介まだだったね?私苗字名前。氷帝の3年」
「私は小日向つぐみです」
「辻本彩夏です。2人とも2年です!」
「そうなんだ。この船に乗ってる間、よろしくね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「お願いしま〜す!」

2人ともいい子達みたい。特に辻本さんは元気いっぱいだ。
そんな話しをしていると急に周りの電気が消え、舞台にライトが当たった。
そこに立っているのは、氷帝テニス部部長の跡部景吾。私の従兄弟でもある。

『いいか、てめぇら!いよいよ明日から、選抜メンバーの半サバイバル合宿の始まりだ。半端なく鍛えてやるから覚悟しとけ、以上だ。乾杯!』

その言葉と同時に、乾杯の声が上がった。
相変わらず派手だね、景吾は…。



***



目の前のテーブルに並べられた数々の料理。キャビアやフォアグラを始め、どれも家では食べれないような料理ばかりだ。

「うわ〜、…あの人達、すごい勢いで食べてる」
「ホント…すごい食欲」
「育ち盛りだもんね。…でも、それにしても食べてるね。皆」
「お前達は食べないのか?」

あっけに取られている私達の前に船長さんが現れた

「あっ、お父さん」
「おじさん」
「遠慮しなくていい。一緒に食べてきなさい」
「あ、でも…私達無理言って乗せてもらった訳ですし」
「気にしなくていい、お嬢さん達」
「あっ、榊先生。今朝はありがとうございました」

私達3人は榊先生にペコリと頭を下げた。

「いや、チケット手配をミスしたのも榊グループ参加の旅行会社だ。当然の処置をしただけだよ」

いつ会っても紳士だよね〜榊先生。
…そういえば榊先生っていつもスーツだけど…スーツでテニスするのかな…?

「ああ、船長、榊監督。こちらでしたか」
「何でしょう、判田さん」

そんな疑問を抱いていると、先生達の後ろに確か山吹中の顧問、判田先生が姿を現した。

「少し相談がありましてな。お二人とも操舵室の方に来ていただけませんか」
「わかりました」
「わかりました、すぐに伺います。3人ともくつろいでいなさい」
「うん、わかった」

榊先生と船長さんは判田さんとともにパーティールームから出て行った。

「じゃあ、私達もご馳走になろうか?」
「そうですね!」

待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに料理が並べられたテーブルに近づく辻本さん。その姿をみて、私と小日向さんは目を合わせ笑った。
舌がとろけるくらい美味しいご馳走をいただきながら、私達はお喋りに花を咲かせた。
南の島に行ったら何をしようか、学校の宿題を終わらせるのが大変だったとか、そんな他愛もない話だけど、その他愛ない時間がとても楽しかった。

「あっ!私氷帝のメンバーに挨拶してくるから、ちょっと席はずすね」
「あっ、はい。じゃあまた!」

お喋りも一息ついてお腹も満腹になったことだし、折角一緒の船に乗ってるんだから顔は出しとかないとね!
2人に手を振って、皆の居る所に向かった。

「景吾!」
「ん?名前か。見当たらないと思ってたんだ。どこにいたんだ?」
「あの子達と一緒にいたの」
「ほぉ〜。…お前、体は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。全然平気!」
「そうか。…でも、あんまり無茶するんじゃねぇぞ?」
「分かってるよ!景吾、心配性なんだから…」

私が景吾と話していると、氷帝のメンバーが集まってきた。
皆お皿に料理を乗せて、美味しそうに食べてる。
ジローちゃんが見当たらない…またどこかで寝てるのかな?

「あっ、あそこにあるの。グランドピアノですね」

鳳君が舞台脇にあるピアノを見て言った。
そう言えば、鳳君ピアノ上手いんだよね。

「鳳君、一曲弾いてきなよ」
「えっ?いや、いいですよ」
「でも、弾きたそうな顔してたよ?いいじゃない、ね?景吾」
「ま、余興に丁度いいんじゃねぇか?」

ニヤリと笑って言った景吾。部長である景吾にそう言われ少し困った様な顔をする鳳君。

「…だったら、苗字先輩は歌って下さい」
「えっ?!」
「ほら、この前コンクールで歌った歌。あれ歌って下さいよ。僕、あの曲好きなんです」
「え〜……」

ちらっと景吾を見ると、鼻で笑って行って来いって言った。
ちぇ…ま、言いだしっぺは私だけどね…。
私と鳳君は舞台に上がった。…皆何が始まるのか興味津々でこっちを見てくる。
うぅ〜…そりゃ見るよね〜。
深呼吸をひとつし、指慣らしをした鳳君と目を合わせ、歌い始めた――


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