02


わったーはサバイバル合宿に参加している。比嘉中からは、木手・凛・わんの3人が選ばれた。…にしても、サバイバル合宿か。やまとんちゅーが考えそうなことさー。
わったーは早乙女のスパルタ練習で日々鍛えられてるから、別に何て事ないと思うけど。

「やまとんちゅーは、皆仲良しこよしさ〜」
「本当に分かってるんですかね?自分達は全国大会で敵だと言うことを」
「勝手にさせればいいやっし〜。最後に勝つのはわったー比嘉中さ」

わったーがそんな話をしてると、舞台の上に誰か上がった。
あのユニフォームは…確か東京の氷帝…それと…たーか、あのいなぐ。この船は貸切って話だったば?
そんな事を思っていると、氷帝の奴がピアノを弾きだし、いなぐが歌い始めた。

第一声を聞いて、体中に鳥肌が立った。心に響く曲だ…こんな綺麗な歌……わん、初めて聞いたさ…。透き通るような声。優しく包み込むような音色―――

「へ〜、やるやっし〜」
「確かに、綺麗な歌ですね」
「………」

わんは言葉がでず、ただじっとそいつを見ていた。
吸い寄せられるって、こんな事言うのかもしれない。
あにひゃーから目が離せなかった。



***



歌い終えたら、拍手が沸き起こった。私は恥ずかしくて、皆に向けて一礼した後舞台を降りた。

「あ〜、恥ずかしかった!!」
「なに言ってる。気持ちよさそうにうたってたじゃねぇか、アーン?」
「歌ってる時はいいの!その前と後は緊張するの!」
「でも、さすがですよ苗字先輩。僕もピアノ気持ちよく弾く事が出来ました」
「…ありがと」

そう鳳君に言って、私は小日向さんと辻本さんの所へ戻った。

「あっ、苗字さん!歌聞きました!すごく素敵でした!」
「歌、とても上手ですね」
「ありがとう。一応コーラス部の部長だからね」
「そうなんですか!」
「夏の終わりにコンクールがあるから、よかったら聴きに来てね」
「勿論行かせていただきます!」

素直に嬉しく思う。会って間もない2人に、そう言ってもらえて。
私の生きたと言う証が残せた感じがして――



***



パーティーもそろそろお開きになって各自自分の部屋に戻る事になった。
私は海を見ようと甲板に向かおうとした。

「うわっ!」
「っとと!」

ドアを曲がった先で誰かとぶつかってしまい、私は尻餅をついて座り込んだ。

「わっさんやー!…ぃやー大丈夫か?」

紫のノンスリーブのユニフォームを着た帽子を被った男の子が、手を差し出して言った。

「大丈夫!…ありがと」

私は差し出された手を取って立ち上がった。
…このユニフォームは、確か沖縄の…。

「いきなり出て来たら危ないやっし」
「ごめんなさい。次から気をつけるよ」
「…ぃやー、さっき歌ってた奴だよな?」
「うん。そうだけど」
「ぃやーの歌、てーじうまかったさ〜」
「あっ、ありがとう…。そう言ってもらえると嬉しいよ」
「あ〜…でさ、…ぃやーの――」
「裕次郎、何してるんば?」
「甲斐君、行きますよ」
「…わーったさ!…んじゃな!」

そう言って仲間の下へ駆けて行った。
甲斐…裕次郎って言うんだ、あの子。
私は、彼らの姿を見送って甲板へ足を運んだ。


甲板に出て、私は海を見渡した。
青く大きな海…この広い海から生命が生まれたって、誰かが言ってたっけ?
じゃあ、人は死んだら海に帰るのかな?そして、海を巡り、また生まれるのかな?
そんな事をぼーっと考えていた。

「ここで何やってんだ?名前」

声に振り返ると、景吾が私の方に向かって歩いて来ている。

「ん?…ちょっと海を眺めてただけ」
「そうか」

そう言って横に並ぶ景吾。

「もうすぐしたら始まる。嵐も近付いてるみたいだ。早めに部屋に戻れよ」
「分かってる。もうちょっと海見たら戻るから」
「そうか。じゃあ、またな」
「うん。合宿頑張ってね!」

振り返り際に手をふり、景吾は客室へと戻って行った。
そう、これから船が座礁するらしい。もちろん本当に座礁する訳ではない。全てお芝居。
座礁の際に選手と先生達がはぐれた様にみせかけ、無人島で選手達だけの合宿をさせ、精神力・忍耐力を鍛える為だとか。
私と小日向さん、辻本さんは無関係だからこのまま船に残って南の島に連れて行ってもらう予定。
でも、この事を知らされてるのは私と景吾と青学の手塚君だけ。
私は体の事もあるからって、景吾が教えてくれた。
無人島で自給自足の生活か〜…大変そうだな。
そんな事を考えてると、雲行が怪しくなってた。
そう言えば嵐が近付いてるって景吾が言ってたっけ…私も部屋に戻らなきゃ――
踵を返し客室に向かおうとしたら、急に胸が苦しくなった…。

「ッッ…こんな…時に……ぁ」

いつもの発作だ。
薬があればすぐ治るけど、部屋の鞄の中だ。
早く戻らなきゃいけないのに、苦しくて動く事が出来ない…。

次第に船が揺れ始める。
私はその場に座り込んで、格子に捕り、揺れに耐えていた。



***



あれから何十分経っただろう。
発作が引き、部屋に戻ろうとした時、すでに周りの海は荒れていた。
船に波が打ち付けられ、水しぶきが昇ってくる。私は揺れで動く事も出来ず、雨に打ち付けられていた。

「やばいな〜…これじゃ部屋に戻れないよ…」

今頃、テニス部の皆は救命ボートでここから脱出してる頃だろうな。
ボートが置いてあるのは反対側の甲板だから、見つかる事はないと思うけど。
さすがにここに居るのは危険だ…とにかく中に戻って――
私が戻ろうと格子から手を離した時、船が大きく揺れた。何かに衝突した様な揺れ。
私は揺れに耐えられず体のバランスを崩してしまい、次の瞬間真下に海が見えた。
体が海へと投げたされそうになり、私はとっさに格子に手を伸ばした。
ギリギリで格子を掴む事が出来、何とか海に落ちなくてすんだ。
だが、このままだといずれ落ちるのは目に見えている。

「っっ…手に力が入らない…どいしよう…このままじゃ――」

誰かっ…助けてッッ――!

「――――ッ!!」

声が聞こえた。海の方からだ
私は首を海の方に向けた。私の下に一隻の救命ボートが見える。

「あれは…沖縄の―――」

さっきぶつかった甲斐君が私に向かって叫んでいる。
でも、雨風と波の音でよく聞こえない。
私は耳を彼等の方に向けようと体をねじると片手が格子から滑ってしまった。

「!!」

やばい…このままじゃ、落ちちゃう!

「飛べ!!」
「…えっ?」

甲斐君が叫んでいる。

「飛べ!大丈夫!わんが受け止めてやるから!!」
「と、飛べって言われて簡単に飛べるわけないでしょ?!」
「いいから飛べ!わんを信じろ!!」
「っ……」

このままじゃ、どの道落ちてしまう――
私は意を決して、格子を掴んでた手を離した。
両手を大きく広げて待ってくれてる、彼の胸に飛込んだ。

「っっ!!」
「ッ!っと、ふぅ〜危なかったさー」

目を開けると、目の前に甲斐君の顔があった。

「ぃやー、大丈夫か?」

心配して顔を覗き込む甲斐君。

「大丈夫…ありが…と」
「っ!おぃ!」
「どうしました?」
「…いやっ、気を失っただけさ」
「安心したんだろ〜…コイツよくあそこから飛んだやっし〜」
「大した根性ですね…」

甲斐は眠っている名前を抱き抱えた。

一同は、舞台である無人島へ向かった――。


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