22


無人島での夏が終わって、早数週間。私はコンクールが終わると同時に入院した。
裕次郎君とは手紙のやりとりだけ…病院じゃ携帯使っちゃいけないから。
でも、裕次郎君からの励ましの手紙は、何より嬉しい。
そして、いよいよ手術の時――。

「いよいよだな…名前」
「うん…」

手術の始まる前。病室に景吾が来てくれた。

「…怖いか?」
「…ううん。だって…この御守りがあるから…」

私は胸元で光る真珠のペンダントを握りしめた。
そのままじゃなくすだろ…って、景吾がペンダントにしてくれた。
裕次郎君に貰った、大事な真珠――。

「ねぇ、景吾」
「ん?何だ」
「ちょっと、頼まれてほしいんだ――」



***



…全国大会が終わって、わったーの夏も終った。
夏の終りと同時に、名前は手術の為、入院した。それからは手紙でのやりとりしかしてない。
一ヶ月前に『これから手術に向かいます』って手紙を貰って以来、名前から連絡はない…。多分、まだ病院だからなかなか連絡できねぇんだと思う…けど。まだ携帯繋がらねぇし…実家の電話も知らねぇ…。こんな事なら、跡部の連絡先でも聞いておけばよかったさ…。

なかなか連絡が来ないと……不安になる…。
信じてない訳じゃねぇ……あにひゃーは…絶対生きて帰って来る。やしが……この不安は消えてはくれねぇ。
何度も携帯のリダイヤルボタンを押しては消し、押しては消しの繰り返し。
名前……早く…ぃやーの声が聞きてぇ…。早く……ぃやーを抱き締めたい――

「裕次郎ーー!」
「…ぬーがや、あんま!」

1階から響くあんまのでっけぇ声。わんも負けじと声を張って応えた。

「手紙来てるよーー!」

その言葉を聞いて、わんは部屋を飛び出し、階段を3段跳ばしで駆けおりた。

「階段はゆっくり降りな!うるさいやー」

あんまの小言を聞き流し、わんは手紙を取ると、また自分の部屋に向かった。
ドアを閉め、手紙の裏を見ると…いつもの、綺麗な字で『名前』って名前が綴られてた。
わんは深呼吸を1つして、ゆっくり封を開けた。
手紙を開け、わんの目に飛び込んだ文字を見て

わんの息が止まった―



***



わんは…1人海岸に来ていた。遠くの水平線に…何かが跳ねるのが見える…。
一緒に見ようと言った沖縄の海。そこに……わんは1人で来ている――。


 裕次郎君へ

 ごめんなさい。……私、頑張れなか
 ったみたい。
 手術の前に、景吾にお願いしたんだ。
 私にもしもの事があったら、この手
 紙を送ってって。
 一緒に沖縄の海を見るという約束、
 果たせなくてごめんなさい。
 もっと、裕次郎君と一緒にいたかっ
 たけど…ダメになってしまって…

 でも…悲しまないで…
 私は、いつでも裕次郎君の傍にいる。
 あなたが幸せになるのを、心から願
 っています。

 私が見れなかった、これからの世界…
 たくさん見て…時々、話かけてくれる
 と嬉しいな。私の心は…もう、沖縄の
 海に行ってるから。

 大好きな裕次郎君へ    

          名前より


手元にあった手紙をもう一度読み返した。
読む度に…涙が溢れ出す。悲しむなって……無理だろ…。

「……なぁ……そこにいるのか?」

波の音にかき消されるくらい小さな声で、わんは呟いた。

「…うちーなーの海は…でーじちゅらさんだろ…」

応える声はない。

「一緒に……見たかったさ……2人…並…んで…っっ」

頬に流れる雫が、潮風にあたって冷たく感じる。

「わん……もう一度……ぃやーの…声…聞きたかった…ぃやーを…もう……一度……だきしめ…たい……」

俯いて……声を必死に殺して……泣いた。

逢えない…もう…二度と――

でも…逢いたい…幽霊でも…何でもいい…あにひゃーに…

名前に……逢いたい―――


「―――――くん」


遠くで…誰かが叫んでる声が聞こえる。

「―――ぅじろうくん」

何だか……聞き覚えのある声が――

「裕次郎くーん!!」

わんは、顔を上げ…ゆっくり振り返った。
ずっと……求めていた…声。もう二度と…聞けないと思っていた……その声。

「………名前」

海岸通りの道を…車からおり駆け下りてくる…あにひゃー。
浜辺に持っていた荷物を投げ捨て、わんに飛び掛ってきた。

「久しぶり!裕次郎君!!」
「……名前……なん…で」
「…あぁ〜、やっぱりそれ読んじゃってたんだ…」

わんの手にあった手紙を見て、名前が額に手を当てた。

「実はね…景吾に手術する前に頼んだの。私に何かあったらその手紙を送ってって。でも手術は成功したから送らなくて良かったのに、昨日『あの手紙送ってやったぞ』って笑っていうんだよ!おかしいでしょ!私ビックリして、急いで飛んで来ちゃったよ」

慌てて喋る名前…じゃあ…本当に…?

「病気は……治った…のか…?」
「うん!この通り!あ…でもすぐ戻らなきゃ。病院抜けて飛んで来ちゃったから」

あははっと元気に笑う名前の頬に手を添える――

「じゅんに……もう…いなくなったり…しないば…?」
「…うん!これからはいつでも逢えっっ――」

きつく…きつく抱きしめた……華奢な体が折れてしまうくらい。

「ゆっ…裕次郎くん…」
「ふらー!!ッッ……もう…逢えないと…思ったやっし……」
「……ごめんね……」
「跡部なんかに…何で手紙渡したば…」
「あははっ…まさか、こんな事するなんて思わなくて」

顔を上げ、名前の瞳をじっとみた。

「ずっと…声聞きたかった……こうして…ふれたかった……」
「……うん。…私も……裕次郎君に…逢いたかった」
「…大好きだ――名前」
「……私も―――大好きだよ…裕次郎君」

二人、抱きしめあい…キスを交わした。
何度も……何度も……お互いの存在を確かめ逢うように。

「…やっと…見れた…」
「…ん?」

目に涙を浮かべた名前が、優しく言った。

「ずっと見たかった――沖縄の海を……裕次郎君と一緒に」
「…あぁ…」

これからは……いつでも来ような――

青く…透き通った沖縄の綺麗な海を――

2人並んで…さ――


fin..

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