21


「…苗字」
「!…甲斐君」

写真を撮り終え、カメラの周りに集まる皆。その光景を少し離れた所で見てた私の横に、甲斐君が来た。

「見せたい物…あるって言ったよな」
「あっ、うん。…何かな?…私に見せたいのって…」

私は恥ずかしくて、言葉が途切れ途切れになってしまう。
甲斐君…あの歌を聴いて、どう思っただろう…。

「少し歩くんだけどよ、付いてきてくれ」
「…うん」

私は、甲斐君の後ろに付いて、林の中へと入って行った。

「あぃ?裕次郎はどこ行ったば?」
「…そう言えば見当たりませんね、彼女も」
「今から花火始まるってのにな〜」
「まぁ、甲斐君はそれ所じゃないんでしょう」
「あぁ、そうか。帰って来た時が楽しみさー!」



***



林の中をゆっくりと進む私達。
月明かりが、私達を照らしてくれてる。でも、横を見れば先は真っ暗。電気がないから当たり前だけど。

「夜道って、やっぱり暗いね。足元注意しないと」
「そうだな。ぃやー、どんくさいからな」
「それ…前にも聞いた様な気がする」
「ははっ、事実やんに」
「…うぅ…確かに言い返せないけどさ…」
「あははっ!」

笑ったと思うと、止まって、右手を私の前に差し出してくれた。

「んっ。手、繋げば危なくないだろ?」

月明かりでよくは見えないけど、きっと照れてるんだよね、甲斐君。私も頬を赤め、甲斐君の手を取った。

「甲斐君がこけたら、共倒れだね」
「バーカ。わんはそんなヘマしねーよ」
「はははっ!」

笑い合いながら、ゆっくりと前に進む私達。少し歩くと、先に光る場所が見えた。

「…あれっ、何か光ってる?」
「おっ、みえてきたか」
「じゃあ、あそこが目的地?」
「そう言う事だ。行こうぜ!」
「わゎっ!急に走らないで〜」

甲斐君にひっぱられ、光の下へと駆け寄った私達の目に飛びこんだものは――

「…うわぁ……蛍だ…蛍がこんなにたくさん!!」

小さな小川の周りに、たくさんの蛍が舞っている。

「なかなか壮観な眺めだろ」
「すごい!こんなにたくさんの蛍見たの、初めて!」
「まぁな。なかなかこれ程の眺めはないだろーな」
「…素敵…まるで、星空みたい……」

靴を脱ぎ、小川に入る。足首が浸かる位の綺麗な川。
川面に蛍の光が映って、私達の顔を照らしてくれてる。

「…ありがとう、甲斐君。ここに連れて来てくれて」
「いやっ、…わんが苗字と見たかっただけさ」

甲斐君も靴を脱いで川に足をつける。2人並んで、周りに溢れる蛍に目をやった。

「…さっきの…歌……」

その言葉に、心臓が大きな音をたてる。

「……うん」
「…あの歌……ぃやーの気持ち…だよな…」
「…うん」
「……わん…自惚れても…いいのか?…ぃやーが……」
「…うん……」

私は甲斐君の真正面を向いた。
帽子の下から覗く、甲斐君の真っ赤になった顔。

「…私…甲斐君の事……好きです――」

私の言葉を聞いて、甲斐君が笑って……私を抱き寄せた。
強く…優しく私を包み込んだ。

「わんも…わんも、ぃやーが好きだ……」

私の瞳を見て、ゆっくり言ってくれた甲斐君の言葉。
嬉しくて…涙がこぼれた――。
その涙を優しく拭く甲斐君…そしてまた…きつく抱きしめあった。

「甲斐君…」
「…ん?」
「……私、生きたいって思うのを…諦めてた。だから、最期の時まで思いっきり生きるんだって。…後悔が残らない様に、楽しむんだって」
「………」

黙って、私の言葉を聞いてくれる甲斐君。

「でも…もうそれが後悔になってるんだよね」
「………」
「…もっと…もっと生きたい。…甲斐君と出逢ってそう思った。甲斐君と一緒に、沖縄の海…見たいって」
「うん…」
「甲斐君はね…」

私は甲斐君の胸にうずめてた顔をあげ、顔をあわせた。

「…私の生きる希望なの。甲斐君が傍にいてくれたら…私は生きられるって…信じれるんだ」
「…あぁ」

頬に触れる、甲斐君の手。大きく優しい手が、とてもあたたかい…。

「わんも、信じてる。ぃやーの事」
「……甲斐君」
「…裕次郎…だろ?…名前」

息が掛かる程近くに、甲斐君の顔が見える。

「…裕次郎君…」
「……もう1回」
「…大好き…裕次郎君」
「へへっ…わんも…大好きだ…名前…」

優しく口にふれる…裕次郎君のぬくもり…そのあたたかさにふれて、また涙した――。

二人、顔を見合った時、夜空に大輪の花が咲いた。
七色に光る、綺麗な花。私達の周りで舞光る蛍達。
まるで、私達を祝福してくれてる様に感じた。
私達は笑い合い、…またキスをおとした。
これからも、一緒にいたい…もっとふれあいたい…
遥かな未来を…あなたとともに―――



***



出航の日。
朝、浜辺に下りた私達の前には、大きな豪華客船。

「ねぇ、つぐみ。これって…」
「私達が乗ってきた船…だよね?」

船を眺めながら呆然としてる2人。

「…つぐみ」
「、お父さん!!」
「おじさん!!」

浜の方から、ボートに乗ってやって来た小日向さんのお父さん。
小日向さんと辻本さんは、駆け寄って行った。

「嬉しそう…小日向さん」
「そりゃそうさー。やっとおとぉと逢えたんだからな」
「ッ裕次郎君!それに、平古場君に木手君も」

声の方に振り返ると、3人が私の後ろに立ってた。

「どうしたの?」
「どうしたって、見送りに来たに決まってるだろ!」
「もうすぐ練習が始まりますから、長居はできませんがね」
「仲間を見送るんのは、当たり前やっし」

練習前に、来てくれたんだ。私は嬉しくなってへへッと笑った。

「それと…ほい、わんの携帯の番号とアドレス」
「あっ、ありがとう!…これでいつでも連絡できるね!」

笑って言った私を見て、照れ笑いする裕次郎君。

「じゃあわんの番号も教えるさー」
「ちょ、凛!何でぃやーのを教える必要があるんさ!」
「だって、わったー仲間だろ?別におかしくないんどー」
「そっ、…そうだけどよ…」
「その辺にしときなさいよ、平古場君」
「へいへーい。裕次郎が羨ましいさー」

ニヤニヤして笑う平古場君に飛びつく裕次郎君。
私は笑って2人を見た。

「苗字さーーん!そろそろ出航しますよーー!!」

浜辺で辻本さんが大きく手を振って呼んでる。
――時間だ。

「じゃあ…行くね」
「…あぁ」
「お元気で」
「またなー」
「うん!!」

振り返り、彼女達の待つ所まで歩き始めた。

「名前ーーー!!」

愛しい人から名前を呼ばれ、振り返った。

「絶対!元気になるんだぞ!!わん、待ってるからな!!」
「……うん!!」

自然に滲みでる涙。…でも、悲しいからじゃない。
私を待っていてくれる人がいる嬉しさ。
私の愛しい人―――

「私、絶対元気になる!元気になって、一緒に沖縄の海、見ようね!!」

必ず……また逢おうね―。頑張るよ…私――!
胸ポケットに入った、虹色に光る真珠をおさえた。
私には、裕次郎君という…希望の光が傍にいるから――。

しおり
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