お手軽フード


「今日の昼は、悪いけどこれでも食っててくれ」

 披露宴が昼をまたがっている場合、錦は一人で食事をすることになる。起床が遅いので朝と昼をかねて一食でも構わないのだが、凌的には駄目らしかった。簡単なおかずが置いてあったり、小銭が置いてあったりする。
 凌の言葉から察するに、手持ちの金がない上冷蔵庫が空。確か今日はバーでのバイト代が支払われるはずなので、そう焦ることもないだろう。

「別に構わないのに」
「四歳児に飯抜きは問題だろ」
「年齢四桁の間違いね」
「年齢詐称したいならもうちょい上手くやれよ」

 錦は朝食のシリアルをむさぼりながら、示された昼食を見る。持ってみると軽い上、揺らすとカタカタ音がなる。

「とても食べ物とは思えないわ」
「インスタントラーメンだ。湯はポットで沸かしてくれ、水いれとくから。火傷に気を付けろよ」
「ラーメンって、あのスープスパゲティのようなものでしょ?」
「スープスパ……。インスタントラーメン初めてか」
「これがラーメンになるの?非常食の類いかと思っていたわ」
「お湯を注いで三分待つ。ちゃんと蓋しとけよ。そしたら出来てるから」
「わたくしは、お湯を注ぐだけ?」
「おう」
「それだけでラーメンが出来るの……?乾物のようなものかしら。あれも水で戻すだけだけれど。それにしてもラーメンの乾物……?凌、このラーメンに織り込まれている魔術式はなにかしら?」
「魔術師かあ、お目にかかったことないなあ俺は」

 仕事に出る凌を見送って、錦は図書館で時間を潰した。すぐに昼になり、家で件の乾物と向き合う。
 湯を注ぎ、三分。卓上時計の分針がきっちり三つ動いてから、錦はそうっと蓋を開けた。
 肉の芳ばしい香り。鼻の良い錦は人工物のような独特さも感じたが、なぜだろう、癖になるような。
 自分専用のフォークで麺をとると、さらに香りが強くなる。

「……悪くないわね」

 およそ百円以下のジャンクフードを絶世の美幼女が食す。
 錦ははじめてのインスタントラーメンに、満足げに笑った。

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