1+2/3×6=5


 ベルツリー急行に乗車しないことを子どもたちに告げたのは、乗車証(パスリング)到着を目前にした日だった。残念がる子どもたちに「家庭の事情」をゴリ押しし、哀やコナンの力も借りてなだめようとして失敗し――子どもたちいわく「一緒にお出かけしたことない」「たまには遠出も一緒に」「外で食べるともっとウマくなる」――代替案としてキャンプへの同行で落ち着いた。
 そして、凌へのこまめな連絡を約束し、見送られたのが今朝のこと。目的地とルートがはっきりしているからか、凌の許可は思ったより簡単にとれた。
 阿笠博士のビートルは定員ギリギリで、元太が助手席に乗っても、後部座席に五人が座るのは少々窮屈だった。
 
『――うん、車で寝ちゃった歩美ちゃんに肩を貸して長時間微動だにしなくても全く肩が凝らなかったっていう羨ましいエピソードは分かったから、なんでキャンプ場じゃなくて旅館にいるか教えてくれないか?』
「メールした通りよ」
『メールは読んでる。読んでるけど信じがたいから、改めて説明してほしい』

 錦はロビーのソファに座って足を揺らしながら、メールと同じ内容をすらすらと話す。

「キャンプ場で殺人事件があって、犯人を見てしまった子どもたちが山小屋に閉じ込められ火をつけられてしまったの。無事に見つかったけれど、こわくてキャンプ場には泊まれないからと、警察官が旅館をおさえてくれたのよ」
『ほんとにメールそのまんまだな……。錦が狙って閉じ込められた、とかではないんだな?』
「?ええ、わたくしは探す側だったわ」

 電話口から深いため息が聞こえる。凌にミステリートレインのことを話したときの渋い顔が頭を過る。
 ため息に混じって子どもたちの安否を問われたので、多少煙を吸っていたと正直に答える。錦の嗅覚のおかげて発見は早かったものの、犯人は山小屋にガソリンをまいた上で火をつけていたのだ。偶然居合わせた女性が子どもたちを移動させていなければ、子どもたちは病院で一泊することになったかもしれない。
 錦は、光彦に見せてもらった女性を思い浮かべる。哀が成長した姿なのではないかと思うほど、彼女は哀によく似ていた。実際に錦が対面すれば何か分かったかもしれないが、残念ながら直接会えていない。
 
「そう、哀さんによく似た女性だったの。もしかして、ママの妹さんだったのかしら」
『ヘッそれはどうだろう……でも、うん、可能性はある、かもしれねぇな……。その人は今どこに?』
「分からないわ。夜の間に探そうかしら」
『夜は寝なさい。……夜じゃなくても、その人にはあんまり関わらないでくれ。こっちでも探してるから』
「はあい。おやすみ、パパ」
『おやすみ、錦』

 通話を終えて顔を上げると、やや怪訝そうなコナンと、やや眠そうな真純が離れた場所から錦をうかがっていた。いつのまにか合流していた真純は、コナンを非常に気に入っているらしく、コナンが多少嫌な顔をしても気にせずコナンに構っている。
 二人の存在に気付いていた錦は、驚きもせず、ソファから降りて二人のもとへ歩いた。

「どうかしたの?」
「いや、橙茉さん遅いなーと思って……」
「皆、キミが戻るのを待ってるんだ。トランプで遊ぼうって」

 事件に巻き込まれて落ち込んでいたのに、もうトランプで遊ぶだけの余裕があるらしい。楽しいことでショックな出来事を忘れようとしているかもしれないが、様々な事件に巻き込まれているという彼らは、子どもでありなが相当タフである。
 錦は彼らに教えられたトランプゲームを思い出しながら、二人と共に部屋へ戻った。

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