Chapter2 〜天賦〜
寝ている間に書き足された情報のお陰で迷う事も無ければ、席官以上の実力を持つ死神の顔と名前も分かっている。
知らない死神は適当に流し、知っている死神には挨拶をしながら、真っ直ぐ十番隊の隊主室へ向かう。
しかし、二番隊の羽織を着た女性が、私が一人でいる事に眉を顰めた。
「あ、おはようございます。砕蜂隊長」
「貴様昨日の隊主会の…瑞稀だったか。一人で何をしている?」
その目は不躾なまでの疑いの色を宿していて。
「えっと、十番隊にお茶を分けてもらおうかと思いまして。六番隊の隊主室に無かったものですから」
私は経緯をきちんと説明した。
変に疑われても困る。
今の私に、彼等を害する気は欠片も無いのだから。
「…使いという訳か。ならば私も同行しよう」
完全に信じたわけじゃ無さそうだけど、此方に向けられる視線は少し柔らかくなった。
「え?隊長ってお忙しいんじゃ…?」
「今日の執務は然程多くなかったからな。大前田に任せている」
本当に大丈夫なんだろうか。
その大前田さんって確か副隊長だったはず。
なんか可哀想だけれど、ここで余り遠慮してまた疑われるのも嫌だ。
この人は、任務や命令を絶対尊守するタイプの人だから。
「そうですか、ではお願いします」
にっこりと笑って頭を下げると、彼女は満足気に頷いた。
「道は分かるのか?」
その問いに、私は一瞬考えて答えを返す。
「記憶力は良い方なので、朧気ながら」
「成る程。私の名も彼奴らに聞いたか?」
歩き出しながら、砕蜂さんが振り返る。
「はい。覚えておいた方が失礼にならないかと思って、後で伺いました」
「そうか。良い心がけだな」
そう言って笑う砕蜂さんの目からは剣が取れている。
その事にほっとして、私も自然に笑った。
「ありがとうございます」
その瞬間、彼女がピタリと足を止める。
食い入るように此方を見つめる瞳に、不思議に思って首を傾げる。
すると、彼女は何かを耐えるようにゆっくり目を閉じた。
「砕蜂隊長?お気分が優れませんか?」
目眩でもしたのかと思って声を掛けると、彼女はいや、と首を振った。
「…何でもない」
そう言って、羽織を翻し、また歩き出す。
そんな彼女に着いて行きながら、さっきの瞳に映った感情を検索にかけていた。
冬獅郎も、白哉も見せた、何かを抑え込むような、何処と無く寂しそうな、そんな瞳。
けれど、私の持つ膨大な情報にも掛かるものは何もなくて。
結局諦めて、自分と同じぐらいの大きさの女隊長の背を追った。
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