Chapter14 〜仮初〜
殆ど反射神経だけでどんな球も撃ち返してくる冬獅郎に、私は軽く疲れを感じていた。
冬獅郎も息は上がっているけれど、まだまだ動けそうだし。
ゲーム開始から1ポイントも動かないのだから、なんか先に進む気がしなくて。
ラケットを振るう速度も、間を行き来するボールも、もう普通の人の目で視認できるものなのかさえ分からない。
何だか、凄く人集りが出来てる気がするのだけれど、気のせいだろうか。
パァンと大きな音を響かせて、ボールを打ち返した瞬間、左腕の制御ブレスが淡く光って足を止める。
シュッと足元をボールが過ぎ去り、冬獅郎が怪訝そうな顔をする。
「ごめん、ちょっと待ってて!」
「何処行くんだ」
「通信!」
「は?伝令じゃねぇのか?ちょ、待て!」
一先ずコートから出て、ブレスレットから溢れる霊力に触れる。
―…繋がったか。藍染から指示が出た。現世の死神の力量を測り、其方側の異端分子…つまりお前を調べろとの事だ。どうする、女。
―分かった。取り敢えず霊圧抑えてこっちに来て。
情報、埋め込んであげる。
―分かった。
ぷつりと通信は途絶えたが、不機嫌そうな冬獅郎が近くのフェンスに背を預けている。
「急用出来た…って言っても、見逃してくれ無さそうだね?」
「当たり前だ。今の霊力、死神じゃねぇ。破面だろ」
「そうだよ。但し、今は私に着いてくれてる仲間だけどね。来たかな」
黒腔が開いたのを肌で感じて、義骸を脱いで死神化する。
「絶対に、手を出さないなら付いてきていいよ、冬獅郎」
「その事、総隊長は」
「知ってる」
そう言い置いて、瞬歩でその場所へと向かう。
一応現世に気を遣っているのか、霊圧も抑えているし、人目にも付きにくい広い公園。
「ウルキオラ」
「来たか、女」
名を呼ぶと、素っ気ない返事を返すとウルキオラ。
そう間をおく事なく現れた冬獅郎を一瞬だけ見遣って、口を開く。
「十刃落ちには全て反膜の匪は仕掛けた。十刃の従属官は隙だらけの者のみだがな」
「そう。思ったより早いのね」
「そろそろ藍染が動く。井上織姫を拉致する計画を立てていたが…どうする」
なっと冬獅郎が声を上げたが、私は無視して話を続ける。
「それはそのまま実行して。潜入には打って付けの理由だもの。ただ、貴方が保護しておいてくれる?傷付けられないように」
「進言はしよう。俺が藍染に忠誠を誓うふりをするのはお前が潜入するまでか」
「そうね。それ以上危ない場所に居るのもしんどいでしょ?」
「否。お前の仲間を手にかけざる得ない状況になった時、どうすれば良いか分からぬだけだ」
「大丈夫。殺して来いと言われたら、偽りの記憶を入れてあげる。今もね」
近付いて、閉じられた彼の左眼に触れる。
現世に駐在している死神達の、粗方の能力の情報と、異分子としての私がどれ程矮小なものかを印象付ける記憶を彼の眼に仕込む。
「成る程。便利な物だな」
「まぁね。それよりウルキオラ、調査任務なら、直ぐには帰れないでしょ?」
「…まぁ、そうだな」
「よし、遊ぼっ!義骸作ってあげるから」
「おい玲!仮にも破面と遊ぶってどんな神経してんだてめぇは!」
「良いじゃない。人数多い方が楽しいでしょ?」
「そのうち技術開発局が此奴の反応を捉えるだろ。その時てめぇが傍に居てみろ。離反だ何だと大混乱だ」
「あ、そか。良し、霊圧完全に遮断する義骸を作れば…」
「そういう問題じゃねぇ!」
いつもの如く、ボケとツッコミの様な掛け合いをしていると、ウルキオラが何処か不思議そうに此方を見ていた。
「存外、警戒しないのだな。お前のその羽織、隊長格だろう?」
「あんだけ情報流した上に、殺気の一つもねぇてめぇは取り敢えず敵じゃねぇ。そう判断しただけだ。それにそのブレスレット、玲のだろ」
「そうだな」
「なら、玲はてめぇを信頼してるんだろ。俺がごちゃごちゃ言っても、此奴は聞かねぇしな」
「随分とその女を信用しているのだな」
「当たり前だ」
「そうか…。女、俺は適当に時間を潰す。構うな」
「あ、うん。またね」
「あぁ」
素っ気無い返事だけを残して、響転で消えたウルキオラ。
やっぱり尸魂界にバレるだろうかと懸念しつつ、わたしも瞬歩でその場を去った。
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