Chapter14 〜仮初〜
元のコートに戻って義骸に入ると、冬獅郎も元に戻る。
「もう少し、動揺するかと思ったんだけど」
「馬鹿野郎。これでも追い付いてねぇよ…」
疲れた様に嘆息する冬獅郎を見遣る。
とか言いつつ、私がしようとしている事もう大体把握出来てるくせに。
「誰にも内緒だよ。総隊長には私が報告するから。事が起こるまで、何も知らないふりしてて」
「なら何で俺にわかる様に通信なんざしたんだ」
「そろそろ、色んな事を疑い始める頃かなって。冬獅郎頭良いし。ここ最近、ずっと一緒にいるから、不安になってるんじゃないかと思ったんだけど」
「お見通しかよ。俺、そんなに分かりやすいか」
「私に極力触れなくなったのは疑ってたからでしょう?」
「…成る程な」
がくりと肩を落とす冬獅郎はテニスの続きをする気分でも無さそうだ。
コートに入って道具一式を片付けて、そこを出る。
「帰ろ。テレビでも見る?」
「そう、だな」
嘆息しつつ、背後を付いてきていた冬獅郎に、バッグを取り上げられた。
「別に重くないのに」
「馬鹿、持たせてんのが嫌なんだよ」
がしがしと髪を掻きながら視線を逸らす彼は、後悔でもしているようで。
「私が、隠してたのが悪いんでしょ。冬獅郎が気にする事無いと思うよ?」
そう、呟けば。
「お前は読心術でも出来んのか」
と返ってきて。
「顔に出てる」
そう返せば、彼は記憶を手繰るように目を閉じた。
「前と逆だな」
「そうだね」
くすりと笑うと、彼も少し微笑んで。
久々に、心が温かくなって、彼の手を取った。
「夕飯、買って帰ろ」
「ルームサービスあるだろ」
「飽きちゃった」
こんな会話はいつまで出来るのだろう。
刻々と近づく最後の時に、今はまだ背を向けていたかったんだ。
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