Chapter3 〜特別〜





約束の時刻よりも早めに着くと、玲が慌てた様子で目の前に現れた。

瞬歩で駆けてきたのだろう。

髪が少し乱れている。


「あ、白哉!私遅れた?」


申し訳無さそうに眉を下げる彼女に首を振り、髪を手で梳いてやる。

そこで、ふと首元に鬱血した印が見えて、眉を顰めた。


「…誰に付けられた?」


自身の声が平素より低くなっていることを自覚しながら、玲を見ると、琥珀の瞳が不安気に揺れた。

その様子で、相手が誰か理解する。

此奴が庇う死神など一人しか居ないのだから。


「…朝、噛まれたの。冬獅郎に…」


小さな声で白状する玲の頭を撫でて、その手を引いた。

独占欲の現れを、噛まれたと表現する彼女に、何を言っても困惑させるだけだろう。

これは奴の挑発なのだ。

乗ってしまえば玲を困らせるだけ。

ならば一度屋敷に戻ろうと、元来た道に足を向けた。

まさか、街に出ると言うのに死覇装で来るとは思いもよらなかった。

否。

自分の気が回らなかっただけだ。

二日前、産まれたままの姿で見つけた彼女が、着物など持っている訳がないのだから。


「…すまない。先に着物も渡しておけば良かったな」


歩きながら、ぽつりと溢すと、まだ私が怒っていると思い込んでいた玲が漸く顔を上げた。


「え?あ、本当だ、白哉着物だね。髪、そのほうが綺麗だよ?」


そう言って笑う彼女は、この髪が好きらしい。

黒の中に紫色が浮かぶその髪にの方が余程美しいと思うのだが。

今日は牽星箝は付けていない。

貴族にしか着用を許されぬあれは、玲と出掛けるには目立ち過ぎるからだ。


「…執務中は邪魔だ」


「そっか。白哉の長さだと顔に掛かっちゃうもんね」


ふわりと笑う玲に頷くと、遠くに屋敷が見えてくる。


「白哉、競争しよ」


突然そんな事を言い出した玲が、問答無用で瞬歩を使う。

追うように瞬歩で駆けるも、霊力の扱いにおいては彼女の方が一枚も二枚も上手で。

幾ら今の霊圧が彼女より勝っていようとも、後からでは追付ける筈もなく。

瞬きする数百分の一の僅差で後におりた私に、玲は綺麗な笑みで微笑む。


「制御、ちゃんと出来てるんだね。安心した」


突然の競争は、霊圧制御を見るための物だったらしい。

本当に安堵した様に笑う玲の頭を撫でて、私は屋敷入る。

昨晩鍛錬したのだ、とは、口が裂けても言えそうになかった。


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