Chapter5 〜遊戯〜





カンカンと鳴り響く鐘の音を聞きながら、玲は胸に走る痛みをぐっと堪えた。


「…馬鹿…っ」


自我を持ってしまったが故に、自分から消滅を選んだ創造体の記憶を見て、けれど、溢れそうになった涙を空を見上げて堪えた。

自分が生み出した結果で泣く訳にはいかない。

そんなのはただのエゴでしかない。

すっと呼吸を整えて、玲は時間になった精霊邸を見渡した。

かなりの破損箇所が目に付く其処を見遣って、玲は背の翼を羽ばたかせて空へ昇ると、手を翳した。


「天照、魂魄剥離防止結界の範囲内を捕捉。対象の損傷を復元及び治癒せよ。”天女の施”」


天照から虹色の光が溢れて、斜魂膜の内部全域を照らし出す。

霊子で出来た建物が、死神達の傷が、昏倒した意識が何もかもが元へと戻る。


気絶していた元流斎が立ち上がって息を吐き。

みるみる治ってゆく傷に驚愕する卯ノ花へ、京楽がほらね?と笑いかけ。

木陰で休んでいた冬獅郎を起こし。

黙祷していた白哉の心を癒し。

回帰を完了させた玲は、天照の顕現を解除して、ふわりと広場に降り立った。


「お爺ちゃん、約束は守ってよ?」


「分かっておる。但し、死神の規則は守ってもらうぞ」


「善処する」


くすと笑った玲は、ぼんやりする頭で霊圧を探った。

瞬歩で向かう先は、


「白哉」


ぽすっとその腕に飛び込むと、表情を変えずに撫でてくれる手に笑って。


「あの子が、ありがとって」


「そうか」


もう消えてしまった彼女達の自我を取り戻す事は出来ない。

せめて戻って来てくれれば、何かしら出来る事はあったかもしれないのにと。

少し暗くなる玲を白哉が抱き締めた。


「創造とは、そういうものだ。本来神にしか使え得ぬ力。だからこそ、扱いは難しい」


「…でも」


「反省しているのなら、繰り返さねば良い」


「うん、ごめんね…」


ふと気が抜けて、気を失った彼女を、白哉は抱き上げた。

流石に疲れたのだろう、磨耗している霊圧を感じ取って。


「…寝たのか」


瞬歩で現れた冬獅郎に、白哉は頷いた。


「兄も…何か聞いたか」


「邪魔するらしいぜ。此奴を作った世界そのものが、感情の特定を、な」


忌々しそうに呟く彼に、白哉はふと目を細めた。


「先は長いか」


「そう思うか?」


「…此奴を泣かせれば只では済まさぬぞ」


微かに殺気を放った白哉に、冬獅郎は鼻で笑った。


「泣かせるかよ」


「なら良い。私は帰る」


「連れて帰るのかよ」


「文句があるか」


白哉のそれで玲の寝る場所が完全に交互になっている事を思い出し。


「明日には返せよ」


一応釘を刺しておく。


「返事しかねる」


此方を見ようともしない恋敵は、しかし玲が起きればそうする事が分かっているのだろう。

去っていく背を見送って、玲の回帰で、副官の酒が抜けていると良いがと息を吐き。

仕事に戻るべくその場を立ち去った。

その日、締め切りの書類を提出出来たのは十番隊だけだったと言う。


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