Chapter5.5 〜朧〜





玲を屋敷へ連れ帰った私は意識を失っている彼女を布団に寝かせ、一つの写真を眺めていた。

そこに写っているのは、ルキアに良く似た…
彼女の姉であり、自分が愛した女の姿。

緋真への想いが薄れた訳ではない。

忘れる事など、出来ようはずもない。

しかし、今自分のすぐ側で笑ってくれる玲が酷く愛おしい事も、もう、認めてしまっていた。

お前は許してくれるだろうか。

ルキアを殺そうとしてしまった私を。

そして、お前が居ないこの虚無に耐え切れず、光を求め、また誰かを愛する喜びを、知ってしまったしまった私を。


―白哉様…。


「な、緋真…?!」


確かに聞こえたかつて愛した女の声に、私は目を見開いた。


―緋真は、とても幸せでございました。
私は永劫白哉様のお心を縛る事など、望んではおりません。


「何故…」


声が震える。

その声は緋真そのもの。

されど、彼女が私に言葉を伝える術などありはしないはず。

ならば…幻聴、か?


―幻聴では御座いません、白哉様。
彼女…創造神の現し身である天照様が私の思念を声として届けてくださっているのです。


「玲が…?」


―いえ、恐らく天照様の気まぐれで御座います。彼女はまだ、眠っておられますから。


「…そう、か」


気まぐれで死したる緋真と会話させるか。

何処までも規格外な斬魄刀だ。

が、感謝はしよう。


「其方は、住み良いか?」


―尸魂界から消えた魂魄は、形を持たず彷徨い、やがて転生の輪廻に組み込まれます。私も…もう。


「生まれ変わるのか」


―はい。しかし、転生してしまえば、私は白哉様に頂いた幸せだった時を忘れてしまうことでしょう。それが、恐ろしゅうございました。けれど…もう、心残りは御座いません。


姿は見えないが、緋真が優しく笑った気がした。


「緋真。私は…其方との約束を」


―白哉様は、妹を守ってくださいました。私は幸せ者で御座います。


「しかし…!」


―白哉様。今まで…有難う御座いました。


ふわりと、暖かい風が私を包み、抜けていった。

それと共に、薄っすらと感じていた緋真の気配も、消えていた。


「緋真…」


暫し呆然としていると、玲が布団の中で身動ぎした。

そうか、あの斬魄刀は…私の迷いを知った上で、緋真の声を届けたのか。

緋真が、もうすぐ転生し生まれ変わる事さえ知っていて、今この時に。

創造神の現し身か。

確かにそうやも知れぬ。

否。

此れが神で無いのなら、私は幻術にでも掛けられたのだろう。

もしそうだとしても。

私は此奴の刀を責める事など出来はしないだろうが。


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