Chapter5.5 〜朧〜
「玲」
「…ん…?白哉?」
何処か虚ろな瞳が薄く開いて、手が所在無さげに宙を彷徨う。
その手を取って引き寄せると、琥珀の瞳が瞬いた。
「あれ?」
不思議そうに此方を見上げ目が、僅かに揺れる。
「どうした」
「夢、見てたの」
「どんな夢だ」
問うと、玲は躊躇う様に目を逸らし、窓の外へ遠い目を向けた。
「白哉が…凄く幸せそうに笑ってた。ルキアに似てる…でも少し雰囲気の違う女の人と一緒に。私それ見て…」
私は苦しげに伏せられたその瞳をみて、玲の身体を引き寄せた。
「何を思った?」
何と無く、予想は付いた。
しかし、彼女の口から言わせてみたかったのだ。
加虐心…という物かもしれない。
「…凄く、苦しくなって。嫌だって…っん」
気付けば、玲の唇に口付けていた。
酷く感情が高揚していた。
愛しさが溢れて、止められなかった。
嫉妬を認めた彼女が可愛くて仕方なかった。
くっと胸を押されて解放すると、こほっと咽せる玲は、呼吸の仕方も知らぬらしい。
「っ白哉、馬鹿…?!」
少し強く抱き締めると、玲は驚いたのか途中で言葉を失った。
「馬鹿、か。私にその様な口を聞けるのは其方ぐらいだな」
「……む。おやめ下さい、朽木隊長」
拗ねているのか、棘のある言葉で、酷く遠く感じる呼び方を選んだ彼女に、ふと笑う。
「仕置きが必要か」
耳許で呟き、首筋に唇を落とすと、玲の身体がびくりと震えた。
「っ〜や、ごめんなさい!」
必死に身を捩って逃れようとする姿に加虐心を煽られて、つっと鎖骨まで唇を滑らせると。
彼女を覆う霊力が質を変えて、ぱちりと間で弾けた。
「あ…ごめ…」
怯える様に瞳を揺らす玲に、やり過ぎたかと反省する。
「いや、私こそ済まぬ」
謝罪すると、瞳が安堵の色を映した。
弾けた霊力に攻撃力は無かった。
ただ、僅かな衝撃を与えるだけのもの。
それでも、彼女がこういったことにとことんまで免疫が無いのはすぐに分かった。
僅かに開いた距離に戸惑っているのを感じて、いつもの様に髪を撫でてやると、強張っていた身体が力を抜いた。
この様子では彼奴も手出しは出来ぬなと、少し安堵して。
「先に風呂か?」
そう問うと、玲の表情がぱっと笑顔に変わった。
その切り替えの早さに苦笑しつつ、今日は逆上せる前に上がらせようと心に誓った。
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