Chapter6 〜現世〜





朝、何処と無く騒がしい屋敷の物音で目が覚めた私は、ふと目をあげた。

屋敷の主はとうに起きていて、けれど私が起きるのを待っていてくれた様だった。


「…おはよ。ごめんね、勝手に寝ちゃって」


「…構わぬ」


「なんか騒がしいね。…現世の事かな」


「何か知っておるのか」


少し目を厳しくさせた白哉に、昨日感じた霊圧の話をした。

話を聞いた白哉は、そうかと呟いたまま、黙ってしまったけれど。

じっと見上げていると、根負けした様に溢した。


「夜半、隠密機動から伝令があったのだ。
現世に魂魄を吸収する化け物が大量に現れたと」


「その事、皆何処まで知ってるの?」


「まだ詳しい事は分からぬが…バウントと呼ばれる人の突然変異した者達が現れたと聞いている」


「そうなんだ」


白哉は、バウントの詳細はまだ知らない様だった。

かつて尸魂界が産み出してしまったという事も。

彼等の能力の詳細も。

どうしようか迷ったものの、聞かれるまで黙っていようと決めた。

情報収集能力だって大事だし、隠密機動が動いているのなら、余計な事を言わないほうが良い。

下手に何もかも手を出してしまって、もし私がいなくなった時、機能しなくなってしまうのも困る。

それに、多分首を突っ込む事を、総隊長が嫌がるだろうと予想して。

それでも、面白そうなら行こうかな。

現世に行ってみる口実にはこれ以上ないし。

なんて、密かに計画を企てていると。


「玲。よもや現世に出向こうなどと考えてはいまいな」


厳しい目で釘を刺されてぴくりと震える。

どうして、白哉は私の考えている事が分かるのだろう。

そんな疑問を口に出来るはずもなく、視線を彷徨わせ。

ふと思い付いて、するりと彼の首に腕を絡めた。


「何を…」


目を大きくした彼を至近距離で見つめて、眉を下げる。


「どうしてもダメ?」


「…っ駄目だ」


「白哉」


真っ直ぐ見つめると、彼の瞳が迷いに揺れる。

もう一押し。


「ねぇ、お願い」


さらりと流れる黒髪を手で梳いて、吐息の掛かる距離で見上げると、漆黒の瞳が苦しげに逸らされた。


「…好きに、するがいい」


「わぁ、白哉、ありがとうっ」


ぎゅっと抱き着くと、溜息を吐きながらも受け止めてくれる彼に頬擦りして。


「総隊長の所行ってくるね!」


ちゃっかり死覇装に着替えて、肩に掛けられる薄衣も創造して。

屋敷を飛び出した私の姿を見送った白哉が、再び大きな息を吐いた事には気付かなかった。


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