◎01 : Re:Open.
爆破された機械
飛び出る光線
貫く球体
新たな機械
肌で感じる
怒 り と
脳で感じる
言 葉 が
あたしの脳を 支 配 した
よくわからないフードに、よくわからない宇宙服みたいなのを着た集団。髪色は皆染めているのか(はたまた"アジア"のように生まれた場所の血筋でそうなのかはわからないけど)同じ水色の髪をしている。
おかっぱ頭で、何かの宗教団体のよう。
ようやく見つけた、彼はまさに今、捕らえられようとしていて。
どくん、と体が疼く。
敵だ。ハッキリとそう理解する。ロケット団なんかと違って…ハッキリと感じた。
ロケット団が甘いとか、そういうワケじゃなくて。その…なんというか…張り詰めた空気は、生半可なものではなかったのだ。
ロケット団の目的は「サカキ」であって、「ロケット団の完全復活」という名目だった。
そういう、ものじゃない。彼らはどこか冷たかった。
それが水色の髪の覚悟。
『
う、あああああああああッ…!!』
「ッ真紅!?」
突然ボールから出てきた真紅がうめき声を上げた。瞳が赤く光って、直接、声が入り込んでくる。
ドス黒い感情と、途切れ途切れの叫び。
いやだ、やめて いたいよ たすけて
きらい 嫌い キライキライ 人間なんテ
ミンな イなくナレ
何度も何度も声が聞こえて、次第に強くなる。怒りを宿したその瞳が衝動を孕む前になんとかしなくちゃ…!
ボールを投げる。あたしが指示をする前に、蔓が真紅の身体に巻きついた。
「翠霞!」
『
解ってるっ…子供はゆっくり寝るもんだ、よ!!』
大量の粉が真紅に降り注いだ。蔓は既に千切られてしまって無惨にもバラバラと地面に落ちていた。粉を振り払って飛び出した真紅に手を伸ばす。
その腕も、届かない。
でも届かなかった腕の先で真紅がゆっくりと地面に倒れこんだ。慌てて、真紅を抱きかかえる。
聞こえる小さな寝息に一時安堵する。けど、いつ目を覚ますかわからない。こんな状態になった事が確か一度だけあったはず。
ミカンさんとのあのバトルの、とき・・・
「紅霞、真紅をジョーイさんのところへ!白波はジュンサーさんを連れてきて!」
『
わかりました。翠霞、橙華。それにギャラドスさん。ヒスイをよろしく頼みますよ。
…くれぐれも無茶などせずに。』
『
ヒスイ、任せたからな』
白波が飛び去った後、紅霞が真紅に手を伸ばしながら翠霞にそう言う。ごめんね、紅霞。真紅をよろしくね。
翠霞が黙って頷くと紅霞はあたしに視線を移して、それからすぐに飛び去った。
傷ついたポケモンがたくさんいた。そんなポケモンには目もくれず、彼らは、"彼"だけを執拗に狙っていた。
"彼"がいくら強くても、これだけのポケモンを庇えるはずもなかった。それでも尚庇うように戦う彼を見ていられない。
すばやく、ボールをふたつ投げる。
「翠霞は巻き添えを避けた場所でポケモンをアロマセラピーでできるだけ癒して。
ギャラドスさんは水の中の傷ついたポケモンを翠霞の元まで連れてきてください…橙華は、あれを破壊するのを手伝って」
『
でもヒスイ、僕は紅霞から』
「これは翠霞にしかできないことだから」
翠霞の言葉を遮って視線を合わせた。翠霞にはわかってる。だけど、彼の優しさは正しい事への決断を揺らがせてしまっている。
申し訳なくて、ありがたくて。でも、翠霞は翠霞に、橙華は橙華に。ギャラドスさんはギャラドスさんに。
そして、あたしにはあたしにできる事があるはずだから。
「橙華!」
『
橙華ヒスイ守る。だから翠霞、翠霞のことする。』
『
…気に入らないけど、任せたからね?』
『
気を付けろ』
思い思いに散っていく。橙華が、あたしの右上を飛んで、いつもの瞳を向ける。
うん、大丈夫。みんなの事信じてる。
だから、あたしにできないこと。走り出して、"彼"の前に躍り出る。
『
またニンゲン………ッ!!』
「逃げて!」
叫ぶ。"彼"に背を晒したまま両手をあの集団に翳す。よくわからない機械が爆発してまた新たな機械が光線を出す。
それを橙華が電撃波で打ち返してくれる。"彼"が逃げる時間は稼げる。
白波がくるまで、待たなくちゃ。頑張らなきゃ…!!
次々爆発していく機械に、肩を少し引かれる。肩に乗る三本の白い指。紫の瞳。
「あっ・・・」
『
……ニンゲン、だな』
そのまま肩の重みが消える。彼が逃げた事を確認して、またあの集団に向き直る。
真ん中の、あのおじさんと、隣のおじいさん。彼らのどちらかが多分ボスだろう。ロケット団の証明のRの文字はどこにもない。代わりに「G」と書かれている。
やっぱり、ロケット団じゃない。…知らない何かがゆっくりと動き出している、それがあたしに恐怖を与える。
それでも"彼"に逢えた。"彼"を一時的にでも救えた。それだけであたしは、戦える、そんな気がした。
橙華が壁を張った。プロテクター…!その壁が光線を防いでくれている間にあたしは力を放出する。
人間も、ポケモンも傷つけられないこの力。ちゃんとわかったんだ、アンノーン。
この力は人とポケモンとの共生を阻むもの、その存在を破壊する。
だから彼ら自体を破壊できない。彼らはポケモンを手にし、共生している存在だから。
でも足止めくらいなら…手を振り下げて次々に破壊していく。
キリが無い。数が多すぎる。あたしのこの力は、残念ながら有限のようだった。体が重くなる。
『
ヒスイ!!!』
遠くで翠霞が叫んだ。まだ、大丈夫。立ってられる。
ピッ、と肌に線が描かれた。赤い線から、弾けるように吹き出た血。そうだ、思い出した。ロケット団のアジトの地下で傷だらけになっていたこと。
あれは爆発の火傷だけじゃなくて切り傷が多かった。ガラスが飛んできたのだと思っていたけれど、違う。
この力の代償だ。それを自覚して腕に憶える痛み。裂けた、今回は、前よりずっと深い。
それでもやらなくちゃいけないのだと歯を食いしばった。
でも線は一本、また一本と数を増やしていく。ぽたぽたと紅い雫が地面に染みを作る。ますます、立っているのがつらくなってきた。
「きみは、ポケモンか?」
貧血で揺らぐ視界のおかげでどうも近くまでボスっぽい人のひとり、おじさんのほうが近づいてきたようだった。
橙華が彼のニューラと対峙している。
息が上がる。ぶれる世界が近づいてハッキリしたはずの彼の顔を何重にも重ねていく。
「さあ…どうだと、おもいます…?」
「…調べてやろう」
プルート!と彼が声を張り上げた。先程の老人がにやにやと笑いながら近寄ってくる。
『
ヒスイに薄汚い手で触れるな!』とどこからか鞭が飛んできて彼らの歩みを止めた。
翠霞、だ。目の前に映る黄緑と、安心できるその声に頬が緩んで一気に力が抜けた。
地面に膝をつく。膝をついたらだめだ、と頑張っていたけれど少し気が緩んでしまったみたいだった。
なぜか橙華が少し震えてるような気がした。あたしがフラフラだからそう見えただけ、かも。
『
悪いんだけど、これ僕のお姫様だから。君たち誰かしらないけど、ヒスイに手は出させないよ』
「…メガニウムか。ニューラ、れいとうパンチ」
「翠霞っ・・・!」
「じゅうまんボルト」
翠霞の真横を、電撃が貫いた。そのままニューラにあたる。これ、じゅうまんボルト?かみなり、じゃなくて?
ゆっくりと振り返る。虚ろな瞳が細められた。あたしを見ずに、その腕があたしの腰にまわされて支えられる。
「だいじょうぶ?」と呑気な問いが紡がれる。
・・・なんで、このひと。
ニューラが真っ黒こげにされたのをおじさんが見、そのままボールに戻した。
「…一時撤退だ、プルート」
ここにはもうヤツはいない。そう吐き捨てて彼が背を向けた。なんとか、なった。
遠くで紅霞の声が聞こえて、すっかり気が抜けてしまって情けなく地面に座り込んだ。
2012.03.18
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