就職先

「ここがダリルシェイド……」
「大きいね」

 あれから暫く歩いて、俺達はダリルシェイドに着いた。
 流石は首都、門から見える範囲でも人々の顔は活気に満ちて、笑顔が溢れている。通りの先に見える、恐らくセインガルド城はまだここからは遠く小さく見える。門をくぐって中に入ると明るい雰囲気と心地よい喧騒が出迎えてくれた。

「いい街だな」
『ソラたちはダリルシェイドに来たのは初めてですか?』
「ん、まーね」

 と言うかこの世界の街に来たのが初めて。言わないけど。

「お前達は先に賊を連れていけ。こいつのことは僕から報告しておく」

 リオンが兵士達に指示を出す。いつまでも俺達を容疑者扱いするリオンに痺れを切らせて急かした結果、道中で俺が盗賊の仲間ではという疑いは一応晴れていた。
 盗賊達は街中を通らないように、そして俺達は大通りを歩いて城へ向かう。

「なぁリオン」
「…………」

 無視かよ。

「ねえってば」
「何だ」

 一回で振り向いてよ。まったく。

「あのさ、すぐにでも報告に行かなくちゃいけないのは分かってるんだけどさ」
「だから何だ。さっさと言え」
「足がさ、」

 足と言われてリオンの視線が下を向く。戸惑う息が漏れたのが聞こえた。

「そろそろ限界かも」

 自宅からいきなり戸外へトリップしたのだ、服装はともかく靴なんて履いてる訳がなく、リビングで動いていたマイは最初スリッパを履いていたのだが、盗賊から逃げる最中とっくに脱げていた。そんな足元で歩いて、靴下はすっかり薄汚れて、地面に直に当たる足の裏は実はかなり痛い。

『どうしてもっと早く言わないんですか!』
「何もない野原で言われたところでどうしようもないだろう」

 シャルが声を荒らげたが、俺もマイも仕方ないと分かっていたから何も言わなかった。それだけだ。

「私は歩いてきただけだからそれほどでも。でもソラは戦ってもくれたから」
「俺たち無一文だから新しく買うわけにもいかないんだけど、さすがにこれでお城に行くのはマズいだろ? どうしたらいい?」
「はぁ……履き物を用意する。こっちだ」

 呆れた声で言われて、俺達は城へ続く道を途中で曲がった。
 リオンに連れられて進んで行くと、周りの建物より一際大きな屋敷が見えてきた。迷うことなく入っていくリオン。広い屋敷に内心びくつきながら続く俺達。

「マリアン!マリアン!居ないのか!」

 うわ、出た。入るなりそれかよ。

「まさか生で聞けるとは……」
「思わなかったね」

 喉を傷めたりしないのか、あの声量は複式呼吸か、などとひそひそと話してしると、奥から一人の女性が出て来た。

「お帰りなさいませ、リオン様。そちらの方々は?」

 背中に降ろされた艶のある長い黒髪。日焼けを知らないかのような白い肌にはうっすらと化粧が施され、エプロンドレスがよく似合う。

「任務中に保護した孤児だ。椅子と何か履き物を用意してくれ」

 ああ、彼女がマリアン=フェステルか。俺達の足を見ると驚いた様子で口に手を当てている。しかしすぐに了承して立ち去ったマリアンは他のメイドと共に椅子と救急箱、それから靴を持って戻ってきた。促されるまま椅子に座ると歩き通しの疲労感から思わずため息が漏れた。

「ありがとうな、リオン。椅子まで言ってくれて」
「ふん、その足で屋敷の中を歩かれては汚れるからな」
「はいはいそうですか」

 診てもらったところ、マイの足に大した怪我はなく、やはり駆け回っていた俺の方が細かい傷となっていた。

「いってぇ!」
「煩いぞ」
「痛いものは痛いんだ!」
「あっ、申し訳ありません」

 ああ、メイドさんに謝ってほしい訳じゃないのに。消毒液に沁みる足は堪えようと力を入れてもビクンと反射で動いてしまう。

「ってて……、大丈夫、自分で分かってやった事ですし」
「まったくだな」
「そこリオンに言われると何か腹立つ」

 やっぱり痛いものは痛いし、言いたくもなるさ。


「何の騒ぎだ」

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