とある日のこと


「………よっしゃ終ーわりっ」

 黒い据え置きゲーム機のコントローラーを床に置いて俺はソファに寝転んだ。手すりに頭、反対側に足。自転車の立ち漕ぎよりみっともない? 制服のスカートからズボンに着替えたし外じゃなく自宅だから大目に見てくれ。
 今までやっていたのはテイルズオブデスティニー2。発売日に購入してからちまちまと時間をみて進めて、今はこれ何周目だっけ。やっぱテイルズは何回やっても楽しめる。
 前作の主人公とヒロインの子供が今回は主人公で、味方も敵もキャラクターの濃い奴ばかり。前作では仲間を裏切ってしまった彼が今作は最後まで仲間としていてくれるストーリーは最高だし、そうしてくれた開発者達に拍手を送りたい。

「それでも、生きて欲しかったなぁ」
「なにが」

 天井を見つめながら呟くと、影を落として黒髪が降ってきた。背もたれ越しに舞が俺の顔を覗き込む。

「ゲームの話」
「ああ、おねぇ好きだもんね。リオンってキャラ。あれ? ジューダスだっけ?」
「同一人物。死ぬことや消えることを甘んじて受け入れるって感覚が俺には分からん」
「二次元二次元。でも助けられるなら助けたい?」
「そうだなぁ。そうかもな」

 下を向く舞の首もとでチャリっと金属の音がした。チェーンに通した指輪が擦れた音だ。同じものを俺も身に付けている。服の上から自分の指輪を握ると金属音ではなく腹の虫がグーと鳴った。思わず二人で笑い合う。
「食べよっか」
「ああ」

 舞が頭上から退いたので起き上がった。ゲーム機を片付けようとソファから降りる。




──可能性を、増やしたいか?




「そりゃあ、助けられるなら…………って、え?」

 舞が何か言ったのかとキッチンを向くと、舞も俺を見ていた。

「「何か言った?」」

 尋ねる言葉も二人分。お互い怪訝な顔になる。




──汝の可能性、見せてもらおう。




 目の前に広がる光の波。痛いほどの白さに思わず腕で眼を覆う。

「おねぇ!!」
「……っ舞!! 」

 白で塗りつぶされる直前、舞が駆け寄るのが見えた。俺も咄嗟に手を伸ばす。
 そこから先は覚えていない。

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