ここ、どこ?

「う……ぁ?」

 何だったんだ、今のは。まだ目がチカチカしてる。
 とりあえず体を起こして状況確認。瞬きを繰り返すと段々視界が晴れていく。春のような暖かな風が頬をくすぐり、暑くも痛くもない柔らかい光が降り注いで気持ちが良い。体を支える手のひらには柔らかな感触。ソファの皮でも、フローリングの床板でも、ない。

 ………風?

 周りを見渡すと、どこまでも続く青空に広い草原。視界の端には小さな小屋のようなものも見える。さっきの感触は土の地面と草のもの。
 いやいやいや、俺部屋にいたし。こんなに明るくなかったし。夕方だったし。
 え、何? 夢?
 でも俺は夢を夢だと自覚できた事が無い。夢だとしたら想像力豊かだなー、俺。
 ……うん、現実逃避だ。わかっているさ。ほっぺ抓ったら痛かったし。つか頭大丈夫か? ゲームのし過ぎ? 巷で噂のゲーム脳? 落ち着け落ち着け。
 えっと、俺の名前は天宮空。十六歳の女子高生。二歳年下の妹と二人で暮らしている。妹の名前は天宮舞……って舞! 舞は!?
 もう一度周りを見渡すと、少し離れた所にうつ伏せで舞が倒れていた。慌てて駆け寄り、抱き起こす。

「舞! 舞! しっかりしろ!!」
「ん……おねぇ?」

 反応があり、ひとまず無事なことに安堵する。倒れてはいたけれど見る限り怪我もしていない。
 そして舞も、周りが見えると俺と同様にこの状況に唖然としている。

「ここ、どこ?」
 
 うん、俺も聞きたいよ。
 草原にずっといても埒があかないので、ひとまず見かけた小さな小屋に移動する。
 木造でログハウス調の建物の中は薄暗かったけれど窓を開けると室内がよく見えるようになった。木製の机や椅子に棚、床には複数の木箱。中身の一部だったのかあちこちに果物と野菜が転がっていた。すぐに痛みそうな物ではないが、冷蔵庫に入れなくていいのかという思いが頭をよぎる。しかし冷蔵庫どころか電気が通っているかも怪しいことにすぐ気がついた。シンプルな家具はあれど電灯や家電の類いが一切見当たらない。

「今日び、山奥のキャンプ場だってライフラインは整ってるだろ。水場もコンセントもない……」
「ここってどこなの?」
「俺に聞かれても。目が眩んで気づいたら草原に倒れてたし」
「うーん、他に何か置いてないかな」

 そう呟きながら室内を調べ始める舞。だがそう簡単に情報になる物なんて無いだろう。大体、日本にこんな草原なんて無い。砂丘はともかく見渡す限りの草原だなんて。そもそも俺達は室内にいた。やっぱり夢か?
いや、夢じゃないことは実感している。見るもの感じるもの全てがあまりにリアルすぎる。ならここは一体……。

「……ぇ? おねぇ? 空姉さーん」
「んぁ、何?」
「何? じゃないよ。何回も呼んでるのに」
「ああ、ごめんごめん」

 どうやら舞の呼ぶ声に全く気が付かなかったようだ。部屋の隅で手招きをしている。

「何かあったのか?」
「うん。これ見て」

 そういって舞が見せたのは一本の古びた剣。この鞘、柄、鍔の形は剣と言うより

「日本刀か?」
「鞘を持っただけなんだけど、怖いくらいに手に馴染んだの」
「……ちょっと貸して」

 舞は剣道部に所属しているし、俺も剣術には多少の覚えがある。道場で真剣に触れたことだってある。刀を受け取り持ってみると手に吸い付くようで、確かに驚くほどに馴染んだ。真剣特有の重みは感じず、まるで自分の体の一部のようだ。
 鞘から抜けばキラリと光る刀身は日光を反射して美しく、長期間放置されていた風には見えない。軽さから考えると竹光などの模造刀かと思えるがきっと真剣だ。それもかなりの業物ではないだろうか。
 ただ、俺の知ってる日本刀とは決定的に異なる部分が一点。これは……いや、でもなぁ……。
 ああ、なんだかすごく嫌な予感がしてきた。

「舞さ……、ちょっと俺の仮定聞いてくんない?」
「どんな仮定?」
「いや、あのさ」


 バンッ


「おい! お前らここで何してる!!」

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