第1話
爽やかに晴れた春の昼下がり。
青々と光る草の上に座る少女の肌を、柔らかな木漏れ日が白く照らしている。
少女の傍らには小さな籠が置いてあり、少女は草むらから何かを摘んでは、丁寧に土を落としてその籠へと入れている。
そこへ通りかかったナルトは、思わず足を止めた。
ここは木の葉の隠れ里のはずれにある小さな森。様々な薬草が群生していることから、ここへ薬草摘みに来る者は少なくない――と、サクラから聞いたことがあった。だから、人がいることに特別な驚きがあったわけではない。ただ、その少女が森の中に佇んでいる光景が、あまりにも過去に見た光景と似ていた。
白い肌――美しい黒髪を耳にかけ、こちらを振り返る少女――自分の子と同じくらいの年ごろの少女なのに、息をのむほど美しく見えた。そう、あの少年もそうだった。少女は、あまりにその少年と似ていた。
「お前……白……?」
思わず口にすると、少女は黒目がちの瞳を瞬いた。
「七代目様。」
その声に驚きの色はなかった。
少女は籠を丁寧に拾い上げると、ナルトの前まで歩み寄ってきた。
「こんにちは。」
「あ、ああ…こんにちは。」
戸惑いながら返事をし、この少女が白であるはずはないと気付いた。しかし、少女はあまりにも自分の記憶の中の少年と似ていて、未だ疑いはぬぐいきれなかった。
「あの…それで、白、とは?」
しかし少女がそう尋ねる丸い瞳は、曇りのない疑問を抱いている。白を知らない――その様子に嘘はなかった。
「いや、なんでもないってばよ。お前、名前はなんてーんだ?」
「リッカです。」
「リッカ、か。アカデミーの生徒か?」
「いえ、先日卒業しました。今日から下忍です。」
「そうか。」
話が尽きて、ナルトは頬をかいた。それを見越したように、リッカが「あの、」と口を開いた。
「その、白、と言う方は、私とそんなに似ているんですか?」
「え……」
そうだ、そっくりだ、まるで本人かと思うほどに。
と、答えてしまいそうになったのをこらえ、ナルトは考えた。白のことをこうも簡単に人に話していいものかと思い当たったのだ。
「あの……私、家族がいなくて。物心ついた時には、孤児院で暮らしていたんです。だから、その、白と言う人が、七代目様が間違えてしまうほど私に似ているなら、何か私の関係のある人なんじゃないかって思ったんです。」
少女の声は切なく掠れた。不思議な魅力のある少女で、柄にもなく胸が高鳴った。
「……ああ、似てるってばよ。」
少女は伏せていた眼を見開いてナルトを見上げた。
「関係……あるかもしれねえ。おれが調べてやるってばよ。」
「え……?」
不安げな少女の顔に、わずかな明るさが戻った。ナルトは少女の細い肩を優しく叩き、踵を返した。
「じゃあ、またな、リッカ!何かわかったら、教えるってばよ。」
「……はい!ありがとうございます!」
リッカは姿が見えなくなるまで、深く頭を下げていた。
リッカに協力を申し出たのは、ナルト自身、ひっかかるところがあったからだった。
あれは他人の空似なんてものではない。何の関係もない他人、というほうがおかしいくらい似ていた。顔つきだけでなく、物腰や雰囲気までも。
「呼んだか?」
部屋に現れたシカマルに、ナルトは目をやった。
「シカマル、今年アカデミーを卒業した下忍で、リッカって名前のくノ一、知ってるか?」
「リッカ?ああ、すそのハジメが受け持っているチームだ。」
「どんな奴だってばよ?」
「ああ?珍しいな、お前がそんなに気にするとは……」
シカマルはぼやきながら、懐から巻物を取り出して開いた。
「ちょうど、今年の卒業生の適性試験の結果が出たところだ。リッカ……は、あったあった。本名・雪六花、13歳女…ボルトやシカダイと同期だな。担当上忍すそのハジメ。チームメイトは嵐一族次男の嵐イブキと、轟一族長男の轟コウライ。適正:技術・精神力共に秀。特性:チャクラ量多、忍術:秀、体術:優。体力が少ないのが難点。あとは……」
「どうしたってばよ?」
淡々と資料を読み上げていたシカマルが急にニヤリと口角を上げた。
「氷遁の血継限界だ。」
「氷遁……」
ナルトは息をのんだ。
「その、雪……一族は、他にいないのか?」
「さあなあ。血継限界の一族は、周りとの諍いを避けるために隠れて暮らすことが多い。だが、雪一族と言えば…霧隠れの里でお前とサスケが対峙した、白だろう。」
「白と…関係あるのか?」
「無関係ってことはないだろう。雪一族と言うのが本当ならな。」
ナルトは顔を上げ、シカマルを見た。
「ちょっと、調べてみてくれってばよ。」
「……わかったよ。」
面倒臭そうに了承したシカマルは、気だるげに火影室を出て行った。