002

海賊が仲間に加わったという噂でもちきりの巨大船のサロンでは、人々が集まって心なしか緊張した顔を見合わせていた。やがてサロンの大きな扉が開き、リノとカイを先頭に、数人の男女がやってきた。すらりと伸びた足と涼しい目元が特徴的な美女キカ。その後ろには、知的でさわやかな美形の好青年シグルド、さらに並んで歩く、快活な少年らしさの残る美青年ハーヴェイ。そして後に続く、どこかの令嬢であるかのような上品さと清廉さを併せ持つ美少女キナ。彼女と手をつないで歩いているナレオも、まだあどけなくも整った顔立ちの中に、大人びた聡明さをたたえている。
サロンに集まっていた人々は皆、うっとりとしたため息を漏らした。
「海賊って、美男美女揃いねー!」
ジュエルが興奮気味に声を上げると、窘めるようにケネスが肩を小突いた。そのときだった。
「おーい、俺を置いていくな!ったく!薄情な奴らだぜ!」
ドスドスと床を鳴らしてサロンに駆け込んできたのは、まるまると太った粗暴そうな男だった。
「騒ぐなよダリオ!」
「まったく…いつまでも酒ばかり飲んでいるから、置いて行かれるんだ。」
ハーヴェイとシグルドがすかさず厳しい言葉を浴びせると、ダリオも負けじと文句をぶつける。
「……前言撤回。」
ジュエルがこっそりと呟くと、ケネスは無言で肩を竦めた。



キナたちにはそれぞれ部屋が割り当てられた。シグルドとハーヴェイ、ダリオ、ナレオは同部屋で、キナは同じ年ごろの少女たちと4人の相部屋となった。
言葉があまりわからないキナのため、シグルドが同行して、その部屋へ向かうことになった。
廊下の奥の方、左側の部屋だ。部屋の前に立つと、中から明るい喧騒が聞こえてきた。キナが意を決して扉をノックすると、「はーい」と可愛らしい声がし、どたばたと音がして、扉が開いた。
「あれっ?」
見慣れない少女と青年に目を丸くした部屋の主は、ツインテールの愛らしい美少女だった。奥には、白いローブを着たロングヘアの美少女と、銀髪の凛とした美少女も見える。
「あの……私、キナ、です。よろしく、お願いします。」
何とかその言葉を絞り出したキナの背中に、シグルドが優しく手を添えた。
「すまない。キナはまだ、ここの言葉があまりわからないんだ。今日からこの船で世話になる。デスモンドさんという人に、この部屋を使うよう言われたんだ。よろしく頼む。」
その言葉に同意するように、キナは深く頭を下げた。頭を上げると、少女たちは皆、にこにこと笑顔を浮かべていた。
「いらっしゃーい!キナちゃん、よろしくねー!」
「どうぞ、入ってください。」
「こっちのベッド、あいてるよ!」
「し、失礼、します。」
キナが部屋に足を踏み入れると、シグルドは見届けたといわんばかりにキナから手を離した。
「じゃあな、キナ。また来るよ。」
「うん…。」
微笑を浮かべて頷くキナを、心なしか心配そうに見つめ、シグルドは扉を閉めて立ち去った。

「じゃあまず、自己紹介だねー!」
少女たちは部屋の中で4人、ベッドに座って向かい合った。
「じゃあ、私からね!私はリタ!ゲームが大好きなの!今度、一緒にリタポンしようね!」
「私は、ビッキーっていいます。何か困ったことがあったら、いつでも言ってくださいね。」
「あ、私ですね…。ミレイと申します。私も、この船には来たばかりですが…よろしくお願いします。」
「キナ…です。よ、よろしく、お願いします。」
よろしく!と人一倍元気よく言ったリタが、立ち上がって部屋の左端のベッドを指さした。
「あれがキナちゃんのベッドね!隣のクローゼットも使ってね!」
「は、はい。」
キナはリタの言葉を理解するのがやっとで、いっぱいいっぱいになりながらなんとか頷いた。
部屋には4人のベッドとクローゼットがあり、壁際には小さな机と椅子、備え付けの本棚があった。ベッドとクローゼット以外は共用なのだろう。しかし机も本棚もがらんとしていて、誰も使っていないようだった。
「ね!ね!キナちゃん、さっきの人ってキナちゃんの彼氏?」
リタが身を乗り出してそう尋ねてきた。
「彼氏?」
キナは聞き覚えのない単語にきょとんとして目を瞬いた。

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