Xmasの思い出
セカンドインパクト


「ちょっといいかな?」

 暇だったクラスメイトが集まって行われたクリスマスパーティー。カラオケをしながら真面目に歌を聞いていたり雑談したりして各々が好きなように過ごしている。
 そんな中、声を掛けられて私は頷いた。友人が音にしないで口だけを動かして作り出される「ありがとう」の言葉。それに微笑んで返事をした。
 暫くこの場を楽しみながらうろちょろする。ポケットにいれていたスマホが震えてメッセージを確認する。
『付き合うことになりました! アキ、ありがとう!!』
 その言葉を見て誰にも気づかれないようにガッツポーズする。クラスから抜け出した友人は告白してハッピーエンドを迎えることができたみたい。それが凄く嬉しくて、羨ましい。
 ちらりと嵐山くんを見て、目が合った。私は慌てて目を逸らした。う――感じ悪いかな。
「あれ、アイツいなくねぇ?」
 男子がそう言いだして周囲にいた人がその子の存在に気づく。
「あれ、あの子もいないんじゃない?」
 聡い女子は何も言わなかったから無神経な男子の誰かが言うと周囲はざわつき始めた。そしてなんとなくだけど皆理由を察したらしい。
 そうだよね、今日クリスマスだもん。中々戻ってこない、この空間にいない男女の人数が同じならそう想像してもおかしくはないかな。
 皆浮かれて結果を気にしている。
 付き合ったらお祝いついでにからかってやろう。振られていたら――状況に任せる。そんな雰囲気。
 放っておいてあげろよと思わなくもなかったけど、結果を知っている私は「ほどほどに」と当たり障りのない言葉を返して次に無難な言葉を繋げて皆の意識を拡散させる。
 そんな感じで少しずつ皆の集中している興味から別のものにとすりかえていく。二人がこの場に戻ってくるまでの間はなんとかなるだろう。
 ブルルル……。
 また私のポケットが震え始める。
『ごめーん、このまま抜け出すからお願いしてもいい?』
 いや、もう手遅れだよ。私の力及ばず皆、気づいているよ。野次馬を作らせずここに留まらせるのが精一杯なんだよ、本当。流石に今更体調が悪くて先に帰ったなんて言い訳は通じるわけがない。
「どうしたんだ?」
 嵐山くんに声を掛けられて、私の心臓が跳ね上がる。
 どうしようかなって思ったけど相手が嵐山くんなら吹聴することもないだろうと私はスマホの画面を見せた。画面を覗き込んでくる顔の距離が思った以上に近くて私は思わずスマホを持つ手が震える。
「実は――」
 気づかれないようにと言葉を口にする。真面目な嵐山くんは私には気づかなかった。でも私が抱えている問題を察したのか、ああ――と声を漏らした。
「良かったね」
「うん」
 素直に返事をしてはっと気づく。そうだけど今はそうじゃないんだよ。つい嵐山くんの雰囲気に流されるところだった。
「で、どうしようかなって思って。流石にベタな理由はもう察してくれと言っているようなものだし。まぁ向こうが開き直ってくれればいいだけなんだけど」
 でもやっぱりこういうの大切にしたいと思うから囃し立てられるようなことはできるだけ避けたいんだよね。
 そう伝えれば同意してくれたのか嵐山くんは考えてくれる。
「他にインパクトあるものがあればいいんだろうけど」
「インパクト」
「例えばもう一組成立させるとか」
「もう一組」
 そんなバカな。都合よくそんなことが起こるわけない。誰かを人柱にという意味ならできなくもないけど……それ、誰がやるの?
「神威は誰かいないの?」
 それは私の意図を汲み取ったの? まさか嵐山くんが人柱に立候補するとは思わなかった。しかも問答無用で私を巻き込んでいる。……それとも私の気持ちを知って……いたりするのでしょうか?
 震えが止まった身体が再び震え始めようとするのを必死に抑えつけて平然でいることに努める。
「そ、れは、どういう意味で?」
 言葉が震えて恥ずかしい。顔に熱が集中する。
 私の心境におかまいなしで、嵐山くんは無垢な目を向けて答える。
「俺、神威のことが好きなんだ」
 響く言葉に私の手からスマホが落っこちた。
 慌ててしゃがんで取れば立ち上がる時に気づいてしまう。近くにいたクラスメイトの視線がこっちを向いている。燃え上がるように身体中が熱い。
 思わず嵐山くんを見れば真面目な顔を向けてくるだけで、本気だと錯覚してしまいそうになる。
「わ、私は――」
 話の流れが流れなだけにどうしたらいいのか分からない。ここは合わせて答えるべきなの。それとも本気で返すべきなの。
 頭の中がぐるぐる回れば回る程、今ここで起きている出来事がクラスメイトに伝わっていき全員の視線を集めてしまった。
「――!! 私、帰るっ!」
 思った以上に出てしまった声。この場から逃げ出すように出て行けば、部屋の方角から励ましているのか揶揄っているのかよく分からない声が聞こえる。
 私はなんてことを……いや、あそこであれは駄目じゃない? 嵐山くん、空気を読んで……くれたからああなったのか。頭を抱えながら外に出て現実を思い知らされる。
「寒い」
 勢いで出てきてしまったから忘れていたけどコートもバッグも置きっぱなしじゃん。出て行った手前取りに行く勇気もなくて途方にくれそうだった私の元に追いかけてくれたのは嵐山くんで――。
「どうし、」
「忘れ物。風邪引くぞ」
 言ってコートを羽織らせてくれる。そうなんだけどそうじゃないんだよ。
「無神経だったから謝ってくるという呈で出てきた」
 その言葉を聞いて私は冷静になる。
「そういう呈ってことは……あれはワザと?」
「うん。でも言ったことは本当だぞ?」
「んん??」
 つまりそれはそういうことで、どういうこと? 混乱の中にいる私は思わず本心が漏れる。
「嵐山くんは、このまま私と一緒に帰ってくれるんですか?」 
「ああ」
 そう答える嵐山くんをちゃんと見れば、彼は既にコートを羽織っていて……やっぱり私のこと気づいていたのかもしれない。
「俺、神威のことが好きだ」
 もう一度告げられた言葉は私の心を離さない。だから私は勇気を出して嵐山くんの手を握った。
「冬休み入ったばかりで良かったな」
「あ」
 私は大事なことを思い出す。次に皆と会う時は忘れてくれたり、しないだろうか――。
「よかったぁ。休みの間、堂々と会えるな」
 私の心配とは全く違って嵐山くんが恥ずかしげもなく花が咲いたように嬉しそうに微笑むから、もういいかな、なんて思ってしまった。


2018.12.15


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