Xmasの思い出
来年への布石


「遅ぇーよ」

 扉を開けたそこには雅人が私のベッドで寛いでいた。
「……私、寝てる?」
「お前は寝ながらうろちょろするのかよ」
「そこまで末期ではないと信じたい」
 びっくりして一瞬目は覚めたけど瞼は相変わらず重いまま。ぺたぺた雅人の前まで歩いては倒れ込むように雅人に抱きついた。抱き止めてくれた雅人の手は優しくて温かくて誘惑に負けてしまいそうだ。
「寝るのかよ」
「じゅうでんちゅ――」
 ぽわぽわして頭が働かない。そのまま流れるように私は身を任せて――……。

 目を覚ました。

 自分の布団の中にいる雅人を見て、時計がもうすぐ昼の時刻になろうとしているのを見て、いろいろ覚醒した。がばっと思わず跳び起きた。
「さみ――」
「ごめんっ」
 反射的に謝ってお互いの状況を確認する。雅人は服を着ている。私も寝間着をちゃんと着てる。
「良かった〜手を出してない」
「逆じゃねぇの」
「逆じゃないの。雅人より私の方が年上だし」
 私と雅人は恋人であるのと同時に先輩後輩の仲でもある。だから守るべきところは守るのが筋だと思うの。雅人はまだ未成年だから二十歳になるまでは絶対に手を出さないって決めてる。
 そう言った時の雅人の顔は忘れられない。でもね、こっちは保護者みたいな立ち位置もあるんだよ。親御さんのことを考えるとその方がいいんじゃないかなって思うんだよね。親なんて関係ないって言うけど滅茶苦茶ある! ずっと一緒にいたいんだから、嫌われたらショックすぎてやっていけなくなる。
 全部は口にしていないけど雅人は勘が良いから割と汲み取ってくれるんだよね。……たまに羽目が外れることもあるけど。ギリギリ防衛できてる私凄い。
「で、テメーは朝帰りかよ」
「だって子どもがパパやママの帰りを楽しみに待っているんだよ!? イブの日に休日出勤させているのに更に残業何てさせられないよ!」
「俺は?」
「……すみません。今日はちゃんと振休、勝ち取っているから許して欲しいです」
 雅人の鋭い目が私を離さない。自分が悪いことを自覚している分たじろいでしまう。
「で、でも待ち合わせ夕方だったのに来るの早いよね! 雅人クリスマスとか人がたくさんいて苦手でしょう? もしかして楽しみにしてくれてた!?」
「それはねぇ」
「だよね……」
酷いのはどっちだよ。いや、そもそも私ドタキャンしてないし、始まってないわけだし! 怒られる筋合いはない気がするんだけど。
「雅人、私はなんで怒られているのでしょうか。あ、もしかしてお腹空いた? 何か作るけど」
「おふくろの飯が冷蔵庫入ってる」
「え?」
「アキが休日出勤するって言ったら問答無用で渡して来いって」
「ん――雅人のお母さん好き――!!」
「ふざけんなよ」
「届けてくれた雅人も好き」
「お前、マジでふざけんな」
 言うと雅人が私の腕を引っ張る。顔が雅人の胸元にあたってちょっと痛い。私の背中に腕が回ってきてがっちりホールドされる。そしてそのままごろりと横になった。
「雅人〜起きよぉ」
「寒い。なんでこたつないんだよ」
「あると寝ちゃうから」
「お前はもっと寝ろ」
「折角、雅人がいるんだから一緒に過ごしたいじゃない」
 学生と社会人ってライフスタイル違うから会う時間を確保するのって本当大変。主に私のせいだけど。仕事を頑張って空いた時間は雅人に会って癒されたい、楽しみたい、癒されたい、だよ。
「ここでも過ごせるだろ」
「いろんなところに出掛けたいんですー」
「めんどくせぇ」
「言うと思った」
 身体が徐々に温まり睡魔が訪れる。抵抗しないと屈服しそうだ。頑張って抗っているのに頭の上から酷く優しい声が聞こえた。まるで子守唄のように私の身体から力を抜けさせ、眠りの世界へと誘っていく。
「次も過ごすんだし焦らなくたっていいだろ」
「うん。来年も一緒……たのしみ」
 伝えたいこともやりたいこともまだあるのに私の意識が遠のいて行く。だから私は知らなかった。雅人が不敵に笑うその意味を。

「ああ。来年、覚えてろよ」

 
20181222


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