ご令嬢シリーズ
ご令嬢は前世の記憶を持って弟を教育する


「どうして本部長の息子のボクが防衛隊員なんかに……!」

毎日、お父様はボロボロになって帰ってきては愚痴をこぼしていました。
自分は凄いのに部下に恵まれなかったとか、
あの男に嵌められたとかなんとか。
それを見て、お祖父様が頭を抑えながらため息をついて言うのです。

「アキ。自分の欲の為に人を陥れたりしてはいけないよ。
誠実な態度で相手と向かい合いなさい」

お祖父様の声が遠くなっていきます。
声を掛けるよりも先に、
私を呼ぶ声で目が覚めました。

「お嬢様大丈夫ですか!?」

突然ですが私、貧血で倒れてしまいまして…目が覚めたら前世の記憶を思い出しました。
まるで三流物語の主人公になった気分になりましたが、
そんな感想はこの際どうでもいいのです。
ええ、何せ前世の記憶を思い出したんですよ?
記憶の混濁というか…少し記憶を整理したいと思います。

まずは私が思いだした前世の記憶から…

前世の私の名前は唯我アキ。
ボーダー第七支部で支部長を務めていた唯我正の娘でした。
私のお父様は、自分は本部長の息子だと。
かなり鼻にかけておりましたの。
子供の私が言うのも憚れますが、
出世したいがために、
不正とかいろいろやってしまいまして……。
本部から来た実力派エリートにより、
防衛隊員に降格したという経歴を持っていますの。

凄く頭が痛くなる話です。
子供は大人についていくだけですからそれはもう避けられないというか逃げられないというか……
それを思い出した時、私は目眩がしました。
何故なら私の現世の名前は唯我アキ。
生まれ変わっても唯我正の娘でした。

それがどういう事なのか……
よくある物語に当てはめてみると、
逆光もの(タイムリープ)、似た世界への転生、そんなところでしょうか?
恐らく私は転生したのではないかと思います。
何故なら前世でボーダーとか近界民とかわけの分からないものがありましたが、
現世にはありませんもの。
逆に現世には私、弟がいまして……
これがもうおバカで一生懸命で可愛いったらしょうがないんです!
前は一人っ子だったので常々下僕…いえ、兄妹が欲しいと思っていたので凄く嬉しくて。
こんな記憶と想いを持っているのです。
もう転生した事に間違いないでしょう。
しかも以前の世界と酷似している世界に。

同じ過ちを繰り返してはいけませんよね。
あんな行為を行う親でも、
私にとっては大好きなお父様でしたので、
現世では名前の通り正しく生きていただこうと決意致しました!
可愛い弟、尊に同じ想いをさせたくもありませんし、
子供なりに、お父様の行動には目を光らせておりました。

ところが数年後、
近界民が襲撃してきて、ボーダーという組織が現れてから展開が早い事。
自分の利益になると判断した時のお父様の行動の速さに脱帽するばかりです。
今回はスポンサーとしてボーダーと関わるみたいですが……それだけにとどまらず、
お金に物を言わせて私の可愛い尊がボーダーに入隊するとか!
しかもA級?
前世でそんなのなかったから存じませんが、
凄く強くて優秀なんですって。
そこに尊が所属するとか……!
前世ではお父様が防衛隊員だったのに現世では尊が……状況は少し違いますが、デジャヴを感じてしまいました。
私、お父様に……いえ、運命に悪意を感じました。

「……それよりも尊?どうして事後報告なのかしら?」

そうなんです。運命の悪戯とかそんな事よりも、
私に内緒でボーダーに入隊した事実にも驚いているんです。
尊って分かりやすいから、前兆があるんです。
それが今回に限ってないなんて…何かおかしいと勘繰りたくなるのもしょうがないわよね?
さあ、尊。理由を話してごらんなさい。

「姉ちゃんには関係ないだろ!?」
「まぁなんてこと言うの…!お姉ちゃんは哀しい……!」
「そ、そんな嘘に僕が騙されるとでも?」

嘘泣きはバレバレのようですね。
いつも同じ手を使っているし、流石に学習するみたいです。
少しほっとしました。
…ちょっとどもっているのは減点ですけど、尊にしては進歩です。

「正直におっしゃい。ボーダーなんて遊び半分でやるものではありません。
あなたに命を懸ける覚悟はありますの?」
「そ、それは……」
「ないのでしょう?だったら辞めてしまいなさい」
「ボーダーのスポンサーの僕が隊員になるのは意味があるだろう?
未知なる敵に対抗するための未知なる技術…僕なら上手く使える!
何せ唯我家の長男だからな!」

その言葉を聞いて私は頭が痛くなりました。
何なんですかその理屈。
前世のお父様の再来ですか。
ちゃんと頭を使いなさい。

「この愚弟!そんな風に育てた覚えはなくてよ!
今すぐそこに直りなさい」
「だから姉ちゃんに言うのは嫌なんだーっ!!」

尊が叫びます。
こんなおバカな弟ですが、可愛くてしょうがないんですの。
身に掛かる火の粉は払い除けますが、
流石に火種を自ら作り上げようとしているのは私だけの力ではどうすることもできないので、
尊に自覚してもらうしかありません。

「こうなったら一度尊が所属した隊の方に挨拶(根回し)を……!」
「ちょっ、余計な事はしないでくれ。
姉ちゃんは僕の輝かしい道を邪魔するつもりなのか!?」
「何を言ってますの。
お姉ちゃんはいつも尊のためを思ってやってますわ」

楽な道に逃げる事は簡単です。
だけど私はそんなのは許しません。
誠実に生きていればそれはちゃんと自分の肥やしになってくれるんですから!
早くそれに気づいて下さいね。我が愛しの弟よ。


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