ご令嬢シリーズ
ご令嬢は前世の記憶から実力派エリートが苦手である
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私の名前は唯我アキ。
企業の社長であり、ボーダーのスポンサーの父と、
ボーダーでA級一位のチームに所属する弟を持つ、
少しお金持ちなだけの唯我家の長女でした。
それが数年前、前世の記憶が蘇ってしまいまして……ただのお金持ちの家の娘ではなくなりました。
前世でも私の名前は唯我アキ。
ボーダー第七支部で支部長を務める唯我正の一人娘。
お父様は出世欲が強い人間で、出世のためならどんな手段も厭わない人でしたが、
本部から派遣された実力派エリートにより、不正が暴かれ防衛隊員に降格。
しかもそのエリートの部下として働いていて、
家に帰ってきたらいつもボロボロ。
「ボクをこき使うなんて…迅遊一め……!」
それがお父様の口癖。
毎晩嘆いていたので私もいつのまにか覚えてしまいました。
そのせいか、前世の私は直接関わりがなかったにもかかわらず、
迅遊一に対して、少なからず負の感情を抱いておりました。
どう考えてもお父様の自業自得なんですけども。
今、思い返してみれば迅遊一は私達一家から多大な恨みをかって苦労されたことでしょう。
ちゃんと話した事がないので知りませんけど。
この現世は前世と近似した世界です。
我が愛しの弟がボーダーに入隊してくれたおかげで、
最近前世の夢をよく見ますの。
これは一刻も早く尊にはボーダーを辞めてもらわないと……!
と、思ったんですけど、先輩方に扱かれている尊の姿を見ると意外にも真剣に取り組んでいるようでーー。
やる気になってくれている尊の邪魔をするわけにはいかないので、
今日も尊が出水さんにボコボコにされているのを見て、太刀川さんに菓子折を渡します。
「これからも、愚弟をよろしくお願い致します」
「いつも悪いな」
「いえいえ、そんな」
うちの男共の我儘に比べれば菓子折なんてほんの気持ちでしかありませんもの。
私に出来ることはこれくらい…させてくれてもよろしいではありませんか?
……という事で、本日の用件もすみましたので、
真っ直ぐに帰ることにします。
「あ、太刀川さんいたいた」
「迅かー久しぶりだな〜」
え、今なんと言いましたか?
太刀川隊の作戦室から出ての出来事です。
「予知で俺の居場所分かってたんじゃねぇの?」
「いやいや、予知ではブースで会う予定だったんだけどいなくてさー。
素直に作戦室来てみた」
「そうだな、迅はもう少し素直に行動した方がいいな」
はははっと呑気に笑っている太刀川さんの声が廊下に響きますが、
私の心には「迅」という言葉が響きます。
え、本当になんと言いましたか?
迅ってあの迅遊一ですか?
前世でお世話になりましたあの迅遊一ですか?
私の背中に嫌な汗が……。
いえ、悪いのはお父様だとは存じておりますが、反射的に身体が反応するんです。
目の前の太刀川さんが嬉しそうに私の背後にいるであろう迅遊一と話しています。
え、私はどうすればよろしいのですか?
もしかしたら同姓同名の見た目と性格は別人というオチ…かもしれません。
そんな小さな希望を無残にも粉々にするお言葉が。
「太刀川さんその人は?」
びくぅっっ!!!
思いっきり反応してしまいました。
恥ずかしい…!
…って、太刀川さん。
なんて珍しいものを見たような顔をしていらっしゃるので?
私だって人の子です。女の子です。少しぐらい反応しても良いではありませんか!!
「あ、あぁ……うちに入ってきた唯我の姉。
……お前、アレで人見知りするタイプだったか?」
太刀川さん、後者は口に出して聞く事ではないと思いますよ。
少なくともこの場では!
しかし、ご紹介されてしまったら仕方ありません。
女は度胸。
挨拶して早く帰ってしまいましょう。
くるりと振り返ってニッコリと。
「失礼致しました。
私、唯我尊の姉のアキと申します」
「どうも、玉狛支部所属、実力派エリートの迅悠一です。よろしく」
見た目別人じゃなかったーー!!
嘘でしょう!?
まさか、まさか、ここにまで……!
アレですか、現世では尊にちょっかいを出す気ですか!?
そうなのですか!?そうなのですね!!?
……いえ、落ち着くのです私。
淑女はいつでも落ち着いて優雅に……内なる獣を抑えるのです。
「……お前ら知り合いだったりするのか?」
「初めてだよ」
「ええ、お初にお目に掛かります」
「うーん、これから長い付き合いになりそうだし、
お近づきの印にぼんち揚げでも……」
「遠慮させていただきます!」
笑顔で一刀両断。
あぁ、この顔この声この目……前世と全く同じじゃないですか。
不吉しか感じないのは気のせいでしょうか。
「こいつ、趣味が暗躍だから気をつけろよ〜」
「太刀川さん、おれがいつも裏で何かしてるって風潮するの止めてくれない?」
「だって事実だろう」
迅遊一が暗躍趣味をお持ちなのはよーく知っております。
でも今はお父様も尊も人の理を外すような事してませんから!
手出しなんかさせません!!
内心意気込んでいる私に迅遊一の視線が刺さります。
あら、何かご用かしら?
「唯我さん、帰りは頭上に気をつけた方がいいよ」
「い、いきなり、なんですか?」
「おれのサイドエフェクトがそう言っている」
「サイドエフェクト??」
「コイツ未来予知できるんだよ。
割と高確率で当たる」
なんですか、そのチート。
頭上注意って、何か空から降ってくるんですか?
未来予知なんて知った事じゃございません。
「私、貴方に負けませんから!!」
宣戦布告、させていただきましょう。
ピシッと言ったおかげで少し冷静になりました。
言うと私はもともと帰る予定だったので挨拶をして帰ります。
ええ、優雅に立ち去ってみせますとも!
「よく分からないが姉もやっぱり唯我だな」
「太刀川さんのとこって面白い子が増えていくね」
「はは、そのうち◯ちゃんの仮装コンテストとか出れそうだな」
「……太刀川さん、どこから突っ込めばいい?」
この時の私は知りませんでした。
二人がこんな会話していた事も。
そしてこの後、鳩の攻撃に遭う事も……。
なーんにも知りませんでした。
20160303
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