クリスマスの過ごし方
平常運転な二人


クリスマスは何をするか――
行事に胸を躍らせ、楽しんで考えていたのは学生くらいまでだっただろうか…。
少なくてもアキはそうだった。
就職すれば、クリスマスでも仕事はある。
浮かれてなんていられない。
その前にアキが就職した先にも理由があった。
ボーダーのエンジニアとして働いているアキは毎日徹夜続きでちょっと疲れがたまっていた。
クリスマスを楽しみにする余裕がなかった。
…というか、気づいたらもうそんな日なのかというくらい、
日々を過ごすのに必死だった。
自分の仕事っぷりがそのまま日々の平穏に繋がるのなら泣き言や愚痴は零しても、
逃げ出すなんてできるわけがない。
なんだかんだで誇りを持って仕事をしている。
それくらいやりがいがあるし好きなのだが、
世の中精神論だけじゃ上手くいかないものである。
身体は正直でもう休んでくれと信号を送っていた。

(定時に上がりたいけど…無理だな…)

アキは時計をちらっと見る。
今日くらい早めに帰るかと栄養ドリンクを飲み、再び仕事に臨んだ。



…はずだった。
早めに切り上げようと思っていたのだが
キリのいいところまでやろうといつも通りに仕事をしてしまった。
気付いたら二十三時過ぎていた。
いつもより少し早いくらいだけど、今日だけはヤバかった。
終わったら電話するからぶらぶら歩こうよとか自分で言ったのを思い出した。
時間的にデートとかディナーは無理だけど、
クリスマスっぽい事はしたいからケーキ食べたいとか言っていたのも…。
自分で最低だーと唸りながら急いで開発室を出たところで、
約束をしていた相手と出くわした。

「ほら差し入れ」
「ありがとう……」

出会い早々、冬島からビニール袋を渡される。
音から察しはできるが一応確認する。
中には案の定、栄養ドリンクが入っていた。

「皆に渡してくるから待ってて」
「お、今日は上がれるのか?」
「今日はもう上がるよ。
ってかごめん、仕事中々終わらなくて…!」
「常に予定通り進まない仕事だからな。
三年前は俺がそうだったし」

冬島は今こそ防衛隊員をしているが、
その前はアキと同じエンジニアだった。
三年前は冬島が残業で帰れず、一人寂しいクリスマスを過ごしたものだ。
次の年は一緒に開発室で仕事を乗り切り、
去年は割りと落ち着いて過ごせた。
最初こそはせっかくのイベントなんだし!と世の中の女性と同じようにロマンチックな夜を楽しみにしては、過ごせなくて剥れる事もあったが、
今では一緒にいれたらいいねぐらいの感覚だ。
別に愛がなくなったわけではない。
ただ、一緒に過ごせる尊さを感じたというか……年はとりたくないものである。

アキは冬島からの差し入れを皆に渡し、開発室を出た。
明日遅刻すんなよーとかそんな事言われたが、
残念ながらアキは今のところ無遅刻を貫いている。
そういうのは遅刻しないようになってから言ってくださいと返したら白い目で見られたのは気づかないふりをした。
男性職員が多いせいか女として見られていない感がする(見られても困る)が、
もう少し言葉を選んでほしいとアキは思う。
…とは思いつつも、
冬島の隣を歩きながらアキが考えている事は少し下的なものもあったりはするわけで――。

「帰るのも面倒だし、今日泊まってもいい?」
「お前、いい加減その言い訳は止めた方が良いぞ」
「言い訳じゃないよ、本当の事だし…
疲れたから一緒にいたい」
「大分溜まってるな」
「そりゃ、ね。
明日山場だから、乗り切れるように癒されたいというか?
慎次がいたら頑張れるし」
「恥ずかしい事言うな」
「慎次が言い出したんでしょ。
お前がいると頑張れるって」

丁度三年前に言われた言葉だ。
アキは覚えている。
じゃあその日一緒に過ごそうという事になったのに、
仕事で帰ってこなかったというオチつきだったのだから忘れるわけがなかった。

「俺も青かったなー」
「もうすぐ三十路だもんね」
「お前もすぐなるぞ」
「嫌なこと言わないでよ!
……でもさ、だから最近思うんだけど、
気合いだけじゃどうにもならないっていうか、
家に帰って誰かいると落ち着くっていうか…
なんか不思議と頑張れちゃうんだよね」
「じゃ、いっそのこと一緒に暮らすか」
「……うん……………………
………………
…………
……









ん?」

今、ナチュラルに流そうとしたが、ふと我に返る。

「ちょっと待って!今の流れで言う?」
「そう言って欲しかっただろ?」
「なんていうかもう少し真面目にというか雰囲気とかいろいろ頑張ってよ!」
「空気読んで今日、言ったんだよ。
俺達機会を逃せばずっとこのままだろうし」
「いや、そうかもだけど」
「俺はいい加減アキが欲しい」
「…っ!慎次は時々ズルい!!」
「文句は家で聞いてやるよ」

はははと笑いながら言っている男はきっと文句の一つや二つ…聞いてはくれないだろう。
なんだかんだで自分のペースにあっているからここまで一緒にいられたわけでもあるのだ。
今更な気はするが、でもやっぱり返事はちゃんとしておくべきだろうと考える。

「私が帰ったら慎次が迎えてくれるんだよね?」
「俺が帰ったらアキがいてくれるんだろ?」
「うん。あ、あとはたまにこんな風に一緒に帰るのもいいかもね」

そんな事を話しながら二人、家路に着いた。


20151222


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