クリスマスの過ごし方
冬のセンセーション


「カゲ、無理する必要はなかったのに」
「るせー。別に無理してねぇよ」
「本当に?」
「そんなん言うなら帰るぞ」
「やだやだ、このままイルミネーション見に行こう!」

アキは影浦の顔を見る。
どうやら体調はまだ大丈夫そうだ。

「でも珍しいよね。
カゲが人が多いとこに行くって言い出すの。
何か変なものでも食べた?」
「お前は俺をなんだと思っているんだ」
「彼氏」
「…ちょっと黙ってろ」

照れたのか不貞腐れた様子を見せる影浦にアキは笑う。


影浦が人の多いところを苦手としているのをアキは知っている。
だから今年のクリスマスは部屋でゴロゴロしてようと決めていた。
しかし、それを聞いた仁礼と北添が影浦にブーイングした。
「彼女に気を遣わせるなんて、男として最低だな」
「カゲもキツイの大変なのは分かるけど、
たまには外を出歩くのもいいんじゃないかな?」
雑誌を広げながらイルミネーションいいなぁとか呟いていたアキを見ていた二人は口出ししたくなるのもしょうがないだろう。
因みに前者が仁礼で後者が北添の言葉である。
二人のブーイングに影浦も反論した。
「本人から言い出したんだからいいじゃないか」と。
そう言えば「乙女心が、分かっていない」と一蹴された。
「カゲさん達が決めたならそれでいいんじゃない」
「ユズルは彼女が本当は行きたがってるって知っていてもそうするのかよ」
「別に」
「へーこの間一緒に歩いていた玉狛の子が相手でもそんな事言うのかお前は」
「な…!なんでそこで雨取さんが……!」
「行くのか、行かねぇのか?」
「い、行くよっ」
「ほらみろカゲ。ユズルだって言っているのにいいのかよ!?」
強制誘導で絵馬を味方につけた仁礼達の抗議は物凄かった。
アキを外へデートに誘うまでは影浦を見つける度に視線で抗議し、
会う度に小言を言うという徹底ぶりに、
キレて北添と殴り合い、結果、先に折れたのは影浦の方だった。

別にそこまでムキになることでもなかったのかもしれない。
敢えて言うなら、なんか癪だったのだ。



「カゲ、ほら見て見て!」

アキは目の前に広がる絶景に綺麗だとはしゃぐ。
同じように影浦もイルミネーションを見る。
確かに綺麗だとは思うが、はしゃぐほどでもない。
女はどうしてこうも綺麗なものが好きなのか。
ちょっとしたものでこんな風に大はしゃぎするのか…理解に苦しむ。


――嬉しい――
――幸せ――
――ありがとう――


理解に苦しむが、
隣で喜んでいる姿を見ると、来た甲斐はあったのだと実感はした。
びんびんに飛んでくる感情はむず痒くてしょうがなかったが、
それでも良かったのだと影浦は思った。

「カゲ、雪が降ってきた」
「道理で寒いわけだな」

アキがぴたーっと影浦にくっつく。
少し触れた手が冷たい。

「お前、手袋して来いよ」
「だって忘れちゃったんだもん」
「しょうがねぇな」

影浦の方から握られた手にアキは一瞬驚いたが、
すぐに握り返した。
いつもならアキの方から手を繋いでいた。
たった些細な事だけど彼女にとってはそれが妙に嬉しく感じたようだった。


――大好き――

「んなの知ってる」
「何?」
「…こっちの話だ」

言葉にするよりも確かに感じる想いは、
雪が溶けるようにじわじわと広がっていく。
妙に胸の中が温かい。
…そんな気がした。


20151223


<< 前 | |