荒船哲次
金魚すくい
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事の始まりは、荒船隊の作戦室だった。
「ああ、言われた祭に行きたいって、神威に」
「は?」
穂刈の言葉に思わず聞き返してしまった。
なんでアキに誘われた話をするのかと二の句が継げない。
そんな俺の事を知ってか知らずか、
穂刈の次の言葉に俺はもう一度聞き返してしまった。
「暇か?次の日曜」
「は?」
「入ってなかったよな防衛任務。
あるか、何か予定が」
「暇だけど何だ?」
「行かないか?荒船も」
穂刈の話は凄くシンプルだった。
次の日曜日、三門市の神社で祭があるとクラス内で盛り上がったらしい。
穂刈、カゲ、鋼とアキは同じクラスだ。
クラスメイトの話題に便乗して、
皆で行こうという話になったらしい。
穂刈が俺に連絡したのは単純に作戦室で会うからだ。
それ以外理由はないぞという言葉に俺は納得した、が、
納得できなかった。
…だけど別に断る理由もねぇ…。
俺は行くとだけ答えた。
アキは少し引っ込み思案な気があるが、
小さい頃からずっと一緒だった…所謂幼馴染で、
気心は知れている。
高校に上がってからは俺は進学校、
アキは普通校で会う機会は減ったが、
家は近所で、お互いの連絡先だって知っている。
何かあったら軽く連絡を取り合う事だってしていた。
だから何でわざわざ穂刈伝いに言うのかが納得できなかった。
祭当日だってそうだ。
近所なんだから一緒に行けばいいじゃないか…とか俺は思うわけで、
加賀美たちと一緒に行くからとかないだろう?
「剥れるな荒船」
「そんなんじゃねぇよ」
「ん、荒船どうかしたのか?」
「なんでもねーよ」
穂刈の言葉に反射的に答える。
そういえばコイツは俺の気持ち知ってて、
鋼は知らなかったか。
…やりにくいな。
帽子を持ってきていない俺は、顔を隠す事ができず舌打ちした。
「皆、早いわね」
加賀美が声を掛けてきた。
そばには今とアキがいた。
「風流あるな、浴衣は」
「今ちゃんに着付けてもらったの。
…どうかな?」
「……」
アキと目があう。
…俺にいっているのか?
アキは金魚柄の浴衣を着ていた。
なんていうかすっげー可愛い。
だけどそのまま口にするのはどうなんだ!?
くそっ、滅茶苦茶恥ずかしすぎるだろ!
言葉が出てこねぇ…。
「うん、よく似合ってるよ」
「あ、…ありがとう!」
「鋼…」
「はー鋼くんに空気読めというのが間違いだったかしら…」
「??」
鋼に先越された…!
かっこ悪ぃな俺。
鋼の言葉にアキがはにかむ姿を見ると余計にそう思ってしまった。
頬を赤くしながら嬉しそうにしている姿を見て、
その顔を作らせることができなかった自分がみっともねぇ!
思わず俺は顔を背けてしまった。
「皆揃ったし、どこに行く?」
「盆踊りだろ、祭といえば」
「穂刈くん気合い入れすぎだから」
「わたし金魚すくいやりたい」
「…いきなりだが二手に分かれるか?」
「じゃあ、私は穂刈くんについて行くわ。
同じ隊だからある程度制御できると思うから」
加賀美と穂刈がこっちを見てくる。
チキショー…分かってるよ。
「仕方ねぇから俺はアキについて行くぜ」
「じゃあ俺も荒船達と一緒に…」
「あー!!
そういえば影浦くんの家、屋台出してたのよね!?
鋼くん!そっちに行きましょう!!」
「ん?いいよ」
今が鋼の手を無理矢理引っ張っていった。
…今にも知られてるのかよ。
「穂刈くん、私達も行きましょう!」
「そうだな」
「アキ、じゃあね」
「う、うん…!」
足早に彼奴らも行っちまった。
なんかかここまでされると逆に恥ずかしいぞ!?
「…俺達も行くか」
「そうだね」
心臓がばくばくして息苦しい。
いざ二人っきりになるとこの調子だ。
俺、余裕なさすぎだろ!?
「あ、あの…哲次くん、一つ聞きたい事があるんだけど」
「なんだ?」
「その…今、彼女いる?」
「は?」
「へ、へんなこと聞いちゃったね!
忘れてくれていいよ!!」
「…いねぇよ」
「そっか…良かったぁ……」
「お前こそ、誰かいねぇのかよ」
「彼氏?いないよっ!」
知ってる。
穂刈やカゲに聞いてる。
でも彼氏がいねぇってだけで、
好きな奴がいねぇってわけじゃねぇだろ?
流石に穂刈やカゲにその話を聞いたことはねぇし、
そこまでは聞けねぇ。
「好きな奴とかいねぇのかよ」
思わず聞いてしまった言葉。
でもこれは俺が聞かなきゃいけねぇだろ?
あれだけ周りにお膳立てして貰って、
アキを好きな俺が動かないのはおかしいだろ!?
アキが一瞬きょとんとして、
それから顔が赤くなった。
それだけで答えは分かった。
まるで答えあわせをするように「いるよ」と答えたアキに俺は「そうか」としか答えられなかった。
誰だよ、お前が好きな奴は…。
俺が知らない奴か?
それとも…
立ち止まるアキにつられて俺も立ち止まる。
「アキ…」
「わたし、哲次くんが好き」
叫ぶように告げられた言葉に、
俺の思考は停止した。
そして次の瞬間、一気に顔が熱くなる。
俺が悩んでいる隙に…同じ気持ちで嬉しいけどよ!
俺から言いてぇじゃないか!
俺が返事をしないからアキの目線が下にいく。
「えっと…急にごめんね。
わたし、ちょっと疲れたから休んで…」
「だったら俺も一緒に」
「そんな、悪いよ!!
折角のお祭りだから哲次くんは楽しんできて」
「悪くねぇよ。
寧ろアキがいねぇとつまらねぇだろ」
「え?」
恥ずかしいけど、
アキへの気持ちは、
その感情に負ける程度のものじゃない。
「俺もお前の事が好きだからな」
「え……!?」
アキが人にぶつかって転びそうになる。
俺はそれを慌てて受け止めた。
「え、えっと…ありがとう」
顔を赤くして言うアキの言葉はどっちに対してだろうか。
「わたしたち、同じ気持ち?」
「あぁ、そうだ。
俺はアキが好きだ」
「あ、わたしも…!好き、だよ」
アキを抱く手に力が入る。
返事をするようにアキの手にも力が入る。
…だけどそこからどう動けばいいか分からずお互い見つめあったまま… …
「とりあえず、屋台回るか?」
「う、うん…!」
とりあえず落ち着こうと、なんとなく繋いだ手。
それを握り返してくれたアキに逆に意識してしまって、
穂刈達と合流するまで、
どこを回って何を話したかあまり覚えてなかった。
20160824
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