二宮匡貴
被害者Iが思う事


女って怖いなーって正直思う。

別に好きになるのは自由だと思うけど、
彼女いるの知っててアピールするってどういうこと?
幼馴染だから図に乗らないで?
いや、私アイツの彼女だからって話でしょ。
意地でも認めない気か、
それとも私がアイツと別れるとでも思っているのか。
馬鹿でしょと言ってやりたい。
…いや、言ったけど。
そうしたら思いっきり私に対して悪口。
相手にするのも面倒だから放っておいたら今度は私が彼女に対して悪口を言った風になっている。
なんで私が悪者にされるのか…。
え、二宮くんを縛り付けて可哀想?
二宮君に手を出さないで?
正当化しようとしているところ悪いんだけど、
匡貴と付き合っているのは私だし、
彼氏なんだから手を出してもいいでしょ!
大体アイツが大人しく縛り付けられる男かっての!
っていうか、アンタは匡貴とどういう関係のつもりで私に言ってるのよ!!!

「アキさん、落ち着きました?」
「これくらいの撃ち合いで納まるわけないでしょ!
犬飼くんはもう少し私の的になって頂戴」
「知ってました?俺アキさんのサウンドバックじゃないんですよ」
「知ってるわよ、匡貴の部下でしょ」
「話噛み合ってないですよね」

呟いた犬飼の言葉を聞きいれる事なくアキは犬飼をメテオラでぶっ飛ばした。

満足したのか二人はブースから出た。
ぐったりと態とらしく座る犬飼の隣に、
アキは遠慮なく座った。
…しかも偉そうに……。

「少しだけスッキリしたわ」

そういうアキの言葉を聞いて、
あれだけ人をうち負かしておきながら、
まだ足りないのか…と犬飼はげんなりした。
実を言うとアキの八つ当たりに付き合うのはこれが初めてではないのだ。

彼女の愚痴を聞いて分かると思うが、
アキは二宮の幼馴染であり彼女だ。
毎回本当にそんなのがあるのかと言わんばかりに、
彼女は二宮に好意を持っている女性達に絡まれてはストレスを溜め、
ボーダーに来て訓練と称し隊員達に八つ当たりをしている。
最近では専らその役は犬飼が受けているのは、
犬飼が二宮隊の隊員だからだろう。

「でも話を聞いていると今までよく二宮さんと付き合ってられましたよね」
「当たり前でしょ、幼馴染よ!?
匡貴がどんな人間か知ってるわよ!
だから高校に上がって学校変わっちゃった時に告白したんじゃない!
匡貴天然入っているから、解ってもらうのに苦労したんだから!!」

実を言うと…という程でもないが、
アキは幼い時から二宮のことが好きだった。
最初は親から面食いねと言われていた。
それについては否定はしない。
アキはかっこいい人が大好きだ。
幼い時から既に顔は整っていてしかも完璧主義者だった。
極めるために努力する人間だった。
そういうところを純粋に尊敬していたし、
時折、二宮が抜けている行動や発言をするのを見る度に目が離せなくなってしまっていた。
最初は幼馴染だから好きなのだと思っていた。
だが、幼稚園、小学校とあがるにつれ、
正直二宮以上にかっこいい人はいないし、好きになれなかった。
恋愛基準を二宮にするのはどうかと思うが、
スペックの高い幼馴染を持ってしまったものはしょうがない。
アキが好きになるなら二宮以上の人だと思っていた。
そんな中、自分以外の女の子も二宮のことが好きだと知った。
それに加え、幼馴染だからズルイとか調子に乗るなと言われ続け、
なんでアンタにそんなこと言われなくちゃいけないのだと逆ギレした。
そこからだ。
アキの二宮の取り巻き達とバトルをするようになったのは…。
なんで彼女でもないのに二宮のためにこんなことしているのかと、
自分自身が分からなかったが、
中学生になった時だ。
ある日、二宮がクラスの女の子と付き合っているという噂が流れた。
それを聞いた時
アキは凄くショックだった。
そして初めてアキのことが恋愛対象として好きなのだと自覚したのだ。
このエピソードだけでもアキも大分天然ではないかと言われるが、
上には上がいる。
噂の真相を二宮本人に確かめれば、
付き合っていないし、噂の人物とは接点は多くなったが、
特別に仲が良いわけではないという。
真実を知って素直に喜べなかったのは噂の人物の気持ちが分かるからなのだろうか。
それともそれを機に女達のアピールが凄まじかったからかは分からない。
だが、このままではいけないことをアキは分かっており、
そしてアキは密かに相手から告白してもらうという夢を持っていたのだが、
それを早々に諦めた。
そんなことしていたら二宮に恋愛対象として見てくれない事が分かっていたからだ。
長年幼馴染をしていたのは伊達ではない。
高校生になってようやく二宮に告白して付き合えることになったのは、
当然だと思うくらいには二宮のことが好きだし、必死にアピールしてきた。
これで安泰かと思えば残念ながらそうはならず。
寧ろ彼女がいると知っていながら二宮に言い寄ってくるので余計にタチが悪くなっていた。
それでも彼女達の想いに気づかない二宮には脱帽だ。
そんな奴いたか?という発言を聞いた時は、
自分の事しか恋愛対象として見ていないのだと知って嬉しかったし、
彼女達がどんなにちょっかいを仕掛けて来ても、
二宮に対する気持ちが本気だったアキは彼女達に負けなかったし、
二宮への想いも揺るがなかった。
あのイケメン顔で天然とか信じられないとアキは叫ぶが、
それでも付き合っているのだから、
犬飼に言わせるとただの惚気にしか聞こえない。

「随分、楽しそうだな」
「匡貴!」

噂をしていたら当の本人がやってきた。
アキは勢いよく立ち上がり、二宮の元に駆け寄った。

「遅い!匡貴が早く来ないから犬飼くんボコボコにしちゃったわよ」
「犬飼、俺の隊にいるんだ。
最低限アキに勝てるようになれ」
「はーい」
「え、私匡貴に勝つように鍛えているんだから、
犬飼くんには負けないわよ」
「お前は違う隊なのに最近うちの作戦室にいすぎだ」
「何言ってるの、暇するくらいならうちの作戦室に来いって言ったの匡貴でしょ。
それより待ってあげたんだから謝りの一言いれるのが先でしょ?」
「時間通りだ。
そんなに言うなら早く行くぞ」

二宮の言葉にしぶしぶ頷くとアキは犬飼に手を振る。

「じゃあ私行くから。
暇潰し付き合ってくれてありがとう」

アキの顔は、清々しい程に嬉しそうだ。
そういう顔を素直に二宮に向けてやればいいのに…と犬飼は思った。
部屋から出て行く間際、
犬飼は二宮と目が合う。
アキは二宮の事が天然だの鈍いだの言っているが、
犬飼からして見ればアキも大概である。
常に近い距離にいると見えない部分もあるのかもしれない。
へらへら笑いながら二人を犬飼は見送る。

前に犬飼は二宮に聞いたことがある。
うちの隊にアキを入れないのかと。
アキは違う隊に属してはいるが本人の意思があれば、
隊から出ることも既存の隊に入ることも、
新たに隊を結成することも可能だ。
私生活やボーダーと、なんだかんだで常日頃一緒にいる二人だ。
今なら二宮隊に空きが一つあるのに―…と、
口にしたのは思い付きでたまたまだ。
その時二宮が言ったことを犬飼は覚えている。

「アキがいると任務に支障をきたす」

公私混同にするなとよく言う二宮だ。
自分の隊員に言っていることは無論自分にも適用する。
真面目なのはいいことだが、
今みたいに無言で圧力をかけるくらいには嫉妬だってしている。
アキ本人は気づいていないが。
二宮もアキと同じように以前犬飼にアイツは俺に対して鈍感だとか、
ガサツだとか、少しは大人しくできないのかとか言っていた。
アキの事を快く思っていない人間にアキが絡まれていたのも知っていたが、
二宮が手を出す前にアキは売られた喧嘩は買うし、
自分で対処しないと気が済まない人間だという事を長年の付き合いで知っている。
助けを求めてくるまでは…とぐっと堪えて待っていたが、
結局助けを求めることなくアキは解決してしまった。
こんなのただの幼馴染では抱かない感情だ。
過去に二宮はアキに、
「他人には興味ない」とか、
「お前みたいな奴を相手にできるのは他にいないだろう」とか、
二宮なりにアピールしていたらしい。
だが、アキは気づかなかった。
だから二宮はアイツは鈍感だと言っていたが、
素直な言葉を使わない二宮が悪いとしか言いようがない。
…口を挟むとクドクドと始まるので言わなかったが。
アキの方から告白された時も、
照れることなく平然と言ってのけたから幼馴染としての情と恋愛を区別できていないのではないかと疑ったらしい。
それが本物だと確信するのには時間がかかった。
…そして今に至る。

二人はずっと前からお互いが好きで、
ずっと拗らせていて、
高校生になってようやく付き合った、現在進行形の恋人だ。
そんな二人に外野がなにを言おうと関係ない。

二宮隊の作戦室の扉がしまる。
そして犬飼は盛大な溜息をついた。

この二人、先が思いやられる――。

早く結婚すればいいのにと投げ槍にもそう思った。


20161011


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