辻新之助
thoughtful gift


「やっぱり人多いなー…」

そう言ってアキは俺の右隣を歩いていた。
今日はクリスマスイブで、クラス皆で遊ぼうという話になった。
俺もアキも正直行く気はなかった。
だけどクラスメイトの女子に「三大王子の二人が揃ってるんだよ!見納めになる前にさ…!」と頼み込まれ、渋々頷いた。
三大王子って何っていう話だけど。
本人に直接聞けなくて、アキに聞いたらどうやら俺とアキの事を指しているらしい。
「新之助、かっこいいからな。女子に人気なんだよ」と言ったアキに正直俺は理解できなかった。
その三大王子に男子を差し置いてアキが呼ばれているんだけど。
アキは女子の平均身長よりも高いからだと思っているらしいけどそれだけでない。
運動部に所属しているから短髪だというのもあるけど、
見た目だけの話じゃなくて、
アキは有言実行の塊で、自分の信念を持って動く人間だ。
だけどそれを人に強要はしないし、人の話はちゃんと聞く。
困っている人…特に女子には優しい。
さらりと自然にさり気なく手伝ったりする彼女の行動の数々に、
女子が「アキが男だったら惚れる」とか言うようになり、
男子がふざけて「お前、王子かよ」と言うようになった。
意外にもその言葉が皆の中で腑に落ちたらしい。
本人も否定せず「ありがとう」なんて言うものだから、
気づいたらアキは王子の仲間入りをしていた。
俺には理解できないけど…。
因みにもう一人の王子は違うクラスの奈良坂の事だ。
今回、奈良坂は違うクラスだから集まりには参加しない…凄く羨ましい。
あまり乗り気じゃないからか足取りが重い。
この時期は人混みが凄いから特にそうだった。
見渡す限り人に埋め尽くされている。
人とぶつからないように避けるのが精一杯。
家族、友達、恋人…すれ違う時の雰囲気で分かる。
皆、大切な人と一緒に歩いている。
ほんわかするように温かいものだったり、
楽しくはしゃいでる感じだったり、
ちょっと甘い独特の雰囲気だったり…なんだかとても羨ましく感じた。
アキは幼い時から一緒だったから、
今みたいに隣に並んで歩くのは俺達の中では当たり前の事だった。
でも少しだけ気になってしまう。
街中を二人で歩いて、
周りから見たら俺達はどんな風に見えるのか――…。

「あの子可愛いね」

声が聞こえて目線だけ向ける。
少し年上の女性と目が合ってなんだか気まずさを感じた。

ぐいっ

いきなり身体を引かれた。

「新之助、前見てないと危ないよ」
「あ、うん」

確かに人はたくさんいるけど身体を引かれる程ではなかったと思う。
アキを見れば、顔が近くて……
俺は慌てて顔を逸らした。

「あの子達仲いいねー」

先程の女性の言葉が聞こえ、無意識に反応してしまう。
だけどそちらに振り向くどころか視線を向けることもできず、
俺は正面を向くしかできなかった。
前から人がやってくる。
それをアキが避けるために俺の後ろに行く形で少し一歩遅く歩く。
人が通り過ぎてから、いつもの歩幅に戻り、俺の左隣に並ぶ。

「なんかいつもより新之助ボーッとしてるけど大丈夫?
具合悪いなら皆に伝えとくよ」
「大丈夫」

俺の返事にアキが笑う。

「何?」
「だって乗り気じゃなかったの知ってるからさー、
新之助って真面目だよなーってあらためて思った」
「……」

確かにそうだった。
でも嘘をつかなくちゃいけないぐらい行きたくないと思っているわけではない。
皆で集まるのは苦手だけど、嫌いじゃない。
はしゃいだりするのは不得意だし、女子とは目を合わせる事もできないけど、
皆が楽しそうにしているのを見るのは好きだ。

「ま、新之助は新之助のペースで楽しめばいいんだから!
気楽に行こうよ!」
「そうだね」
「今日は楽しみだなー」

「辻くーん、アキー!」

クラスメイトが呼ぶ声がする。
そのうちの女子一人が大きく手を振ってくる。
ちょっとどうすればいいのか分からず目を逸らしたくなる。
先程、二人一緒にいるのを周りからはどう見られているのか気にしたりしていたのに、
個人に向けられるとどうしても尻込みしてしまう…なさけない。

「おまたせー」

アキが俺の隣で大きく手を振り、
クラスメイトの方へ駆けて行く。
「今日もアキ、元気だね」という言葉にアキは「それだけが取り柄だからね」と答えていた。
クラスメイトから視線を逸らさずに済んでほっとする。
俺は小さく息を吐いた。
緊張はする…だけどアキが一緒だと、
相手の視線を気にしなくなって…少しだけ落ち着ける。
でも、いつまでもアキに頼りっきりは嫌だから、
少しでも早く克服したい。

乗り気ではなかったこの集まりも、
少しは楽しみにしていた事には既にアキは知っているから。
大声で話したり笑ったりはできないけど、
自分のペースで楽しもうと思った。


20161225


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