境界の先へ
三輪秀次

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※15巻発売時点の情報を元に捏造しています。
ヒュースは玉狛第二のバランサーを務める万能手という設定にしています。




――初めからそうだった。近界民は嫌いだ――。


学校での三輪秀次といえば、
少し物静かで知的な男子生徒だ。
見た目のカッコよさだけではなく、
同年代では見られない大人っぽさも持っている。
そしてなかなか入隊できないボーダーの隊員であり、
更にはその隊の隊長を務める優秀な人間と、
学友達は認識していた。

ボーダーでの三輪秀次といえば、
A級七位三輪隊の隊長を務める実力者でだ。
ボーダーに入隊している者なら、近界民に恨みを持つ者は多い。
その中でも秀次はA級隊員で近界民は駆除すると徐に断言するのに有名な隊員だった。
普段は物静かなのに近界民の事になれば憎悪を見せていた。
…というのも昨年までの話だ。
無論、今でも近界民に対し憎悪は持っている。
しかし昨年に比べると荒々しさは消え、公私混同するのが少なくなった。
…冷静になったといってもいい。
今まで自分だけの世界で姉の復讐しか考えてこなかった秀次にとって、
それは自分の世界を少し広げることになり、
周りを見渡せる余裕ができた。
これは小さくも大きな一歩であり、
今更ながらも秀次の世界を形成しているものはボーダー…近界民を倒す事だけではないと気づく事が出来たのだ。
気づけば考える事ができる。
いきなりは無理だが秀次は少しずつ考え変わっていこうとしていた。
…が、世の中にはどうしても苦手なものはあるし、
変えようがないものがある。
その中の一つは身内の事だ。

秀次は妹が苦手だった。
どう接すればいいのか分からない。
それは今でも同じだった。
自分の世界の中心は姉で、
その姉の力によりなんとなく繋がっていた兄妹の関係も、
姉がいなくなった途端、よく分からないものになった。
近界民に復讐すること。
それだけを糧に過ごしてきた秀次は、
他の邪魔なものは切り捨てた。
妹はその対象だった。
元々どう接すればいいのか分からなかったのもある。
が、妹を切り捨てたのは、
そちらに意識を向けると秀次は自分がどれだけ無力で弱い人間なのか…
それから目を背ける事になる気がして嫌だったのだ。
自分が姉をどれだけ慕っていたのか忘れてしまうのではないかと怖くなった。
特に家族を見ているとより強く思った。
家族が一人いなくなったのにそれを受け入れ生きていこうとする家族が、
秀次の目からは凄く薄情に見えたのだ。
それは許せない事だった。
だから余計に秀次はボーダーに全力を注いだ。
意固地になっていた。
それが自覚出来るようになるのに時間が掛かった。
そして今、変わろうとして最大の難関が妹の存在だった。
今まで積極的に関わろうとしていなかったため、
今更どう接すればいいのか分からないのだ。
会話したのだって、この前の姉の三回忌が久しぶりだった。
そしてこの間の近界民の件。
二人の間の共通話題は姉とその近界民の事しかない。
正直コミュニケーション不足にも程があった。


「妹と最近どうよ」
「何の話だ」
「いやいや、オレが間に入るのもなんだけど、
あれからちゃんと話したか?」
「今まで通りだ」
「いやー嘘だろ!?」

秀次の不器用なところは知っている米屋も流石にこれはないだろうと思った。
いつもなら彩花が秀次にお弁当を届けに来るがそれもなくなり、
どことなく秀次が不機嫌な気がする。
完全に妹を邪険にできなかった秀次である。
なんだかんだで妹の事は気にかけているのだ。
現に今いるのはボーダー本部にあるB級ランク戦会場で、
珍しくも会場に来て試合を観に来ている。

「本当は気になっているのにな」
「何がだ」
「ほらほら玉狛の。
お前あんまB級ランク戦観に来ねぇじゃん?
気になってるんだろ」
「気になってない」

やれやれ…と米屋はため息をついた。
長年彼の友達で、そしてチームメイトである米屋は知っている。
これが、知らなくてはいけない人物に知られていない事が問題だった。
因みに本人もその自覚がないのだから質が悪い。
第三者からみると兄妹そろって不器用で似ているなの一言だ。

「この前彩花に会ったけど、元気なさそうだったぜ。
ちゃんとフォローしたんだよな?」
「オレは事実を言っただけだ。あれ以上言う事なんてない」
「いやいや、流石に友達が近界民…っていうか、
少し前に攻めてきた奴だって知ったら混乱するだろ。
まーオレもアイツとは関わる機会ないからどんな奴か分からねーけどよ」
「大体何故オレが近界民のフォローをしないといけない」
「今は仲間じゃん?
最近白チビとも仲いいし、その辺は柔軟になったんじゃねぇの」
「仲良くなんてない」

今までみたいに盲目的に嫌う事はなくなったが、
それでもやはり根っこの部分は変わらないようだ。
まぁ、こればかりはどうしようもない事だ。

『ランク戦終了――!
この試合、玉狛第二が勝利しましたっ!!』

ランク戦終了の声が聞こえる。
大画面には、
勝利した玉狛第二のエースである遊真とヒュースが映っている。

「オレは近界民が嫌いだ」


――アイツ等はいつもオレから大事なものを奪っていく――。


20160613


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