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ほのかに甘い
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“明日からまた行く”
その言葉にはどれだけの意味があるのか…。
本人達でないと分からない言葉。
その言葉に込められた想いは本人しか分からない…。
「彩花〜」
その姿を見て陽太郎は走り出した。
別に疑ってたわけではないが、
ヒュースは彼女の姿を見て安堵し、
そして少しだけ照れくさかった。
「ヒュースつれてきたぞ」
「違う。オレがここに行きたいと思ったから来ただけだ。
陽太郎に連れてこられてない」
「ありがとうヒュース君」
「べ、別に…自分の言葉に責任を持っただけだ」
「そうだ!
久しぶりにお菓子作ったの」
良かったら…と控えめに言いながら出されたのは可愛くラッピングされたクッキーだった。
暫くご無沙汰だったためか、
陽太郎はおおはしゃぎで受け取った。
同じくヒュースも彩花からクッキーを受け取った。
それを見て彩花は何かを思い出したのか笑みを溢した。
「どうかしたか?」
「うん、前はなかなか受け取って貰えなかったのになーと思って」
「あ、あれは…!
こちら側の食べ物に慣れていなかっただけだ…!」
初めて見るものなら…警戒するだろうと反論するヒュース。
確かに、あの時の彩花はヒュースのその挙動を見て、
親しくもない人から貰う事に警戒していると思ったくらいだ。
その事を素直に話すと、
多少なりともそちらの方でも警戒していた事をヒュースは話した。
「でも今はそんな事はない。
彩花のものなら安心して食べられる」
「…なんだか少し照れるね」
「た、他意はないっ!」
「うん。あ、あと良かったら…その…
昨日助けて貰ったお礼に皆で食べて貰えると…」
少し大きめの包みが出てきて、
一瞬躊躇ったが、彩花の顔を見てヒュースは受け取る事にした。
「あれ、陽太郎とヒュースじゃない?」
「そうだな」
小南と木崎がここに来たのはたまたまだった。
本日の玉狛の料理当番が木崎であり、
小南が食べたい物をリクエストしたため、
一緒に買い出しに来ていた。
その道中、二人は公園で陽太郎とヒュース…そして一緒にいる彼女を見つけたのだ。
「あの子誰かしら?」
「陽太郎がよくお菓子を貰う相手だろう」
「ああ!あの噂の!?」
思わず身を乗り出そうとする小南に木崎は止めた。
主に陽太郎から彩花の話を聞く木崎は、
なんとなく事情を把握している。
折角ヒュースがこちら側の世界に慣れ親しんできているところだ。
ここは温かく見守っておきたいところだ。
「アイツ、あんな顔するのねー」
いつもと違うヒュースの表情を見て、
木崎の意見に小南もあっさりと納得した。
同じ玉狛のメンバーとして応援したいところもある。
だから素直にその場は素直に立ち去った。
…のだが、
「オサム、いいところに…」
言ってヒュースは修に包みを渡した。
「これは…?」
「先日救助した…民間人からのお礼の品だそうだ」
「ああ!ヒュースの友達の!」
「…そうだ、皆で食べて欲しいと言われた」
玉狛支部にて、
クールな感じで言うヒュース。
修達からするといつも通りだが、
先程公園で目撃した小南からしてみれば少し可笑しく感じる。
「へー凄く律儀な子なのね」
興味津々に会話に入ってきた小南。
近づけば包みからほのかに甘い香りが漂ってくる。
「美味しそうね」と純粋に感想を漏らした小南にヒュースは一瞥した。
「フン、食い意地が張ってるな」
「はぁ!?」
ヒュースの言葉に小南はカチンときた。
確かに夕ご飯前で少しお腹は空いているが、
誰も食べたいなんて催促していない。
小南に対するツンツン具合に若干怒りを覚えるくらいだ。
「何よ、彩花ちゃんといる時はデレデレしてるくせに」
「!?そんな顔していない!
…というか覗き見か!?悪趣味な女だな」
「だーれーが覗きよ!
少しは先輩を敬わりなさいよ!!」
いきなり目の前でヒートアップする二人に修は冷汗を掻いた。
今、どういう状況なのか全く分かっていない。
「騒がしいスね」
「あ、迅さん、烏丸先輩お疲れ様です」
「お疲れ修」
「メガネくん、言い争いの原因って何?」
リビングに入ってきたのは迅と烏丸だ。
未来予知で視えていなかったのかと問えば、
小南とヒュースが言い争うのは視えたけど原因は分からなくてさーと返ってきた。
言うほど便利でもないよと言う迅に、
修は自分の目の前で行われた出来事をそのまま話した。
「ああ、三輪さんか」
烏丸の言葉に修と迅は驚く。
「三輪さん…ってもしかしてその…」
「ああ、三輪隊の三輪先輩の妹だ」
「ええー秀次の!?
ヒュース、いつのまにそんな事になってたの!?」
「迅さんのサイドエフェクトで視えなかったんですか?」
「おれ、見た事ない人の未来は視えないから!
ヒュースが誰かと親しくなるのは視えていたけど…え、
秀次の妹なの!?」
あまりの驚き様に本当に迅は視えていなかったらしい。
「でも、確かに言われてみれば顔は少し似ていたような…」
「え、メガネくん知ってるの?」
「はい、昨日防衛任務でお会いして…」
「お前達、騒がしいぞ」
木崎が皿を持って並べ始めた。
「レイジさんは秀次の妹に会ったことあるの?」
「ああ。今日、小南と一緒に見掛けたな」
「もしかして秀次の妹を見た事ないのおれだけ!?」
「…そうですね、宇佐美先輩は昨日の任務で見ているので…」
その言葉に衝撃を受けるしかない。
日頃防衛任務で街を視まわって未来を視ている迅が、
まさか…の展開である。
…というか、一人だけ見た事ないのもそうだが、
話を知らないのもなんだか仲間はずれされた気になる…。
「二人とも、そろそろ夕御飯だ。
言い争いはそこまでに――」
「レイジさんの言うとおり。
…という事でヒュース。秀次の妹紹介して」
「誰が貴様に見せるか!」
「ケチだなー。別に減るもんじゃないし。
ほら、今ならおれのサイドエフェクトで未来視るからさ」
「断る!!」
ますますヒートアップしていく会話に木崎はため息をついた。
「京介、修。手伝ってくれないか」
「はい」
「あ、レイジさんよろしければこれ…」
言って修が手渡したのはヒュースが彩花に受け取ったものだ。
皆で食べて欲しいという事だったので、
折角だからと包みを渡す。
修も彩花と直接話した事がないので人となりはよく分からないが、
あの警戒心の強いヒュースが親しむ相手だ。
言葉通り、皆で食べた方が喜ぶに違いない。
この夕食が終わるまでの間、
玉狛の食卓は彩花とヒュースの話題一色だった。
20160801
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