信用と信頼
呪い

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「無理はしなくていい、……のそばにいてくれ」

それはある男が一人の少年に植え付けた呪いだ。



「任務遂行は絶対だ」
「生き延びることを優先にしろ」
「何があっても仲間だけは裏切るな」

これはある男が少女に植え付けたルールだ。


「では、このルールが破綻する時、
お前は何を一番に守らなくてはいけないのか」

これはその男が少女に課した難題だった。


そう、このルールは全て厳守できるものではない。

例えば、囮になった時。
敵を引きつけなければならない大事な役だ。
弱ければすぐに死んで敵は仲間の元に行ってしまう。
できるだけ長く引きつける強さがないといけない。
これは自分が生き延びる事を優先にしてしまえば、成り立つことができないものだ。

例えば、敵を倒す時、
敢えて仲間を切り捨てないと勝てない戦況だって出てくる。

任務遂行を選べば、いつかは命を捨てることも、仲間を捨てることもでてくる。
他も同じで、
生き延びる事を選べば任務が失敗する事もあり、仲間を裏切る事にもなるだろう。

では、一番優先しなくてはいけない事は何か?


少女は迷わず答える。
「任務遂行を第一としなくてはいけない」

その答えは、駒として優秀な答えだった。
人間は、生死に直面した時、仲間の情に揺さぶれた時、
必ず迷うものだ。
だから、駒を育てる時は命令に忠実でいるように教育するのが常だった。

少女は男にありとあらゆるものを叩きこまれた。
戦えるように武器の使い方を教わる。
生きて帰ってこれるように、
何度も殺されかける。
死に対して、
敏感になるように感覚を磨いていく。
他にも兵としての過ごし方、
情報の集め方、駆け引き、
相手を生かす方法、殺す方法、
仲間を守る方法…
あげればきりがない。

少女にとってこの男は、
憎むべき敵であり、
自分が戦うための理由であり、
一緒に戦う仲間であり、
そして、師であった。


「任務遂行は絶対だ。だが、生きていれば任務以上に大切なものが出てくる。
その時はどんなに険しくても自分の気持ちに正直になって突き進めばいい」
「…それは軍規違反になるんじゃないの?」
「なるな。それでも後悔するより断然いい。
俺は自分の信念を貫く奴は個人的に好きだ」

言うと男は少女の剣を弾き飛ばし、
少女の身体を地に叩きつけた。

「それでお前がこの国と敵対することになったら、
俺は迷わず殺すがな」

少女の首筋に剣を突きつける。

「本気で殺し合うのも楽しそうだが、殺すには少し惜しいところでもある」

男は少女の首をはねた。
トリオン体の換装が解け、少女の肉体が晒される。


「俺が使い切るまで、長く仲間で(そばに)いろよ」

それは男が少女に課した任務だった。


そばにいるとは、
守る事、寄り添う事、共に戦う事…
他にもいろいろある。
少女は誰と共にいたいと思うのか、
そばにいて何をしたいと思うのか、
少女は常に試されている。

長く生き続けるにはそれが重要なのだと、
少女は考えた。
捨てられないようにするにはどうすればいいか考えた。
利用価値があると思われるにはどうすればいいのか考えた。
国のために、その人のために尽くせばいいと考えた。

勝手に死ぬ事は許されない。
任務のために生きていく。
仲間でいるため(使えるよう)に自分を磨いていく。


「俺が使い切れるまで、長く仲間で(そばに)いろよ」

それが少女を縛る呪いになった。


20150726


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