信用と信頼
反撃の狼煙

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「で、これはどういう事だ説明しろ」

そう切り出したのは三輪だ。
「え、見ての通りよ」
「ふざけるな」
「ちょっと銃口向けないでよ。
今無駄にトリオン消費したくないんだけど」
三輪隊のおかげで船の上の戦いは終了した。
結果だけ言えばボーダーの勝利だ。
で、三輪が言っているのはどれの事だろうかと首を傾げてみせると全部だと即答された。
それが何かという話なのだがこれ以上言うと三輪の神経を逆撫でするだけで状況は悪化しそうなので黙っておくことにした。
「ここにいる理由は…まぁ私がへましたのよ」
あまり傷口を抉るようなことは言わないでほしいと桜花は言った。
「その武器って武闘大会の時の野郎が使ってたやつだろ?
どうしたの?」
「これは貰ったのよ」
「いやいや明星さん、貰ったって……嘘だろ?俺でも分かるって」
「本当の事よ、貰ったの」
このままでは埒が明かない。
そう判断した奈良坂は話の腰を折る。
「これからどうする」
「まずは冬島さんに任務達成した事を連絡しないと…!」
古寺の言葉に三輪は少し冷静さを取り戻す。
続いて米屋がそうだったと思い出したように言う。
因みに桜花はボーダーのトリガーを起動しているわけじゃないから奈良坂と古寺の無線は聞こえていない。
二人が独り言いっているようにしか見えない。
「冬島さん?今回の全体指揮って風間さんが担当じゃなかった?」
「とぼけるな」
三輪に一喝される。
とぼけているわけではないが、少し離れている間にいろいろあったのだ。
現状どうなっているのか聞くのは当たり前だと桜花は思う。
「どういう事?」
「昨晩、風間さんも戻らなかったんです。
何かに巻き込まれたと思って装備品の位置情報を追ったら――」
「私と風間さんが一緒にいると判断したって事?」
「…ああ。だから明星さんがここにいるのは予想外だった」

ボーダーは王子の救出と風間達の救出と二つに分かれて行動することになった。
三輪たちは王子の救出。
残りは風間達だ。

「そこに、私の反応もあるのね?」

桜花は確認した。
返事はイエスだ。
「ねぇ、お願いがあるんだけど」
彼女が何を言いたいのか、分からない程皆鈍くはない。
「明星さん、しめまでヤル気?」
「自分の失態を誰かに任せるわけないでしょ。
それに一回殺したい奴がいるのよね」
桜花の言葉とその表情にどちらが悪役か分からないなと奈良坂は思った。




風間が目を覚ました時、目の前にはあの雨取麟児と見知らぬ男が会話をしていた。
さっきまで一緒にいた桜花の姿はない。
寝起きとは思えない程、風間の頭はすっきりとしていた。

「どうしてこのガキを始末しなかった」
「使えると思ったからだ。
俺の目利き力、結構あること証明しただろう?
かわりに女の方はあっちに置いてきたし、そっちに不都合はないはずだ」

話からして相手はこの勢力の首謀者らしい。
麟児とその男は繋がっていた。
そして桜花は嵌められたらしい事も。
何をやっているんだあの馬鹿は。
そう思いこそすれ、怒りは出てこない。
目の前の状況をどう処理するかを考えた。
身体は拘束されているから調べられないが、
恐らくトリガーは盗られているだろう。
今の自分が何もできない事を踏まえ、どう動くか……。
幸いにも相手はいきなり自分を殺すわけではないようなので、
考える時間はある。
勿論時間制限付きで。
しかもそれがいつまでなのか期限が分からない。
普通なら焦りを覚えるが、風間はどこまでも冷静だった。
焦っても状況は変わらないのは分かっている…経験のおかげだ。
拘束されている腕を動かせばジャラ…と金具の音がする。
出発前に鬼怒田から割らされた装備品だ。
それが腕についているという事はボーダーには自分の位置情報が伝わっているはずだ。
風間にできる事は少しでも長くこの場にとどまることだ。

麟児と男は話がついたらしい。
男が部屋から出て行くのを見て麟児が風間に目をやる。
どうやら目が覚めたのに気付いていたらしい。
「お前の連れはここにはいないぞ。
桜花は今頃アイツラの生贄になっている」
麟児は目の前で風間のトリガーを出しながら言う。
やはり自分のトリガーは没収されていたかと風間は思った。
「悪いが明星は悪運だけは強いからな。
大人しくはしていないぞ」
「だと思うよ。ああいう人間はどちらに転ぶか分からないからな。
おかげで計画修正に追われているよ」
「それは誰の計画だ?」
反対勢力か鳩原達密航者。…それとも麟児のものなのか。
ここに来る前、鳩原達を追っていた風間だからこそ分かる勘だ。
風間の言葉を聞いてこちらの事も大方知っているのかと思ったらしい。
麟児はうっすらと笑みを浮かべる。
「桜花もよくバレル嘘をついたな。
協力者に聞いたが、風間さんは姉も妹もいないらしいな」
「アイツはお前たちの事は知らないからな。
何せお前が密航して半年後にこちらに来たからな」
そもそも、麟児達の事は機密事項となっている。
桜花でなくてもほとんどの者は知らないのだ。
「ボーダーは近界民を入隊させるようになったんだな。
世間はよく許したな」
「明星は元々こちら側の人間だ」
「近界で傭兵したり、ここの文字も読めるのにか。
ボーダーの遠征でそういう文化交流はしないと聞いていたが」
麟児の言葉を聞いて風間は桜花の認識を変える。
どうやら彼女がここで過ごして得たものは戦闘経験や、傭兵としての世渡りだけではないらしい。
桜花の近界でのフットワークの軽さに、
今後はどうポジショニングするか考え物だなと風間は思った。
しかし風間達がここにきて三日四日しか経っていないのに、
よくこんなにも情報を集めたものだと感心する。
間違いなくアイツラは情報を露見するような揉め事を起こしたのではないかと頭が痛くなる。
それと同時に分かる事もある。
「アイツは近界民に攫われての四年間を必死に生きてきたんだろう」
それこそ命を懸けて――。
風間の言葉に麟児は一瞬目を見開いた。
「雨取麟児、鳩原と通じ何を企んでいる?」
麟児の表情の変化に風間は追撃を掛ける。
それが分かって麟児も心の中で苦笑した。
「企むって程でもない。
俺達も必至なだけだ…もっとも俺の本来の目的はもうこの中にはないけどな」
麟児は自分の額を指さして言う。



ズドオオォォォォン!!

その時、爆音がした。
地面が揺れる。
どうやらアジトが襲撃されたらしい。
「大砲か…この国にここまで威力があるモノは…」
麟児の言葉に風間は笑った。

「雨取麟児。
精々、自分が何をしたのか…その目に焼き付けろ」


20151118


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