26
人通りの少ない路地に差し掛かった辺りで、そろそろ身体が痺れてきたのでギブを伝える為にぺしぺし背中を叩く。肩に担がれると結構しんどい。
「爆豪さん……上半身が痺れてきました……」
「あ?……チッ」
やっと答えてくれた後、脇道に逸れた路地裏に入って降ろしてくれた。
俺がまだ動けなかったら通行人の邪魔になるからだろうか。周りに人なんて居ないけど。
「どうも……」
「おう」
少しだけ沈黙。
俺はなんか気まずくて爆豪の顔が見れないし、多分、こいつもこっちは見てないだろうと思う。
けど、いつまでもこうしてる訳にはいかない。何より、こいつには色々と聞きたい事がある。
「あの、えーっと……。助けてくれて、ありがとう」
「………おう」
「爆豪が来てくんなかったら俺死んでたかもしんねぇし」
「縁起でもねぇ事言ってんじゃねぇよボケ、俺が居たら死なねぇわ」
男前発言しやがった爆豪はふん、と鼻を鳴らしてる。
なんだそりゃあ、と思うけど、ほんとに何処に居たって助けてくれそうで笑いそうになった。ずっと俺の横にでも付いてる気なんだろうかこいつは。でもまぁ、今は笑わない。
「それさ。俺が居たら、とか、さっき言ってた事とかも、意味わかんねぇんだけど」
「あ゛ぁ?何がだ」
「傷付けて良いのは俺だけとか、触れんなとか!ッ……おれの、もん……とか」
言葉にすると恥ずかしさが勝ってしまって、後半は尻すぼみになった。
正直、色んな事がありすぎて脳内のキャパはとっくに超えてる。けど此処でうやむやにしたら駄目だ、と思う。
「そんなん言われっと……なんか期待すんじゃん……」
何を、とは言わない。言えない。自分の感情すら今はぐちゃぐちゃなのに、何かを欲しがってる。
ぎゅっと自分の服を握って、視線は下がってしまってて、爆豪の顔は見れない。今顔が熱くなってる事だけは分かってるから。
「あんだそれ、お前それ自分で言ってっ事分かってんのかよ」
「………、わか、んねぇ」
「はぁぁ?」
「わかんねぇ、けど、なんか嬉しいことは……わかる」
握り締め続けてる服はもう皺くちゃだと思う。緊張と不安で手汗もすげぇし、ちょっと震えてる気すらする。
「だから、どういう意味で言ったのか知りたい」
少しだけ気合を入れてから顔を上げて爆豪を見ると、普段あんまり見ない様な真剣な表情をしてて、ドキッとした。
「好きだ」
「ッ……!」
「てめぇを俺のもんにしてぇし、誰にも触らせたくねぇ」
クソ、もう二度と言わねぇからな!って言って眉間に皺を寄せた爆豪は背を向けてしまった。
けど、後ろからでも見えてる耳が赤くなってて……、あーーーーもう!!
「…ッ!ぅおい!?」
耐え切れずに踏み出して、目の前の背中に飛びついた。引き剥がそうとされるけど、俺だって男だしそう簡単には剥がされねぇぞ。
「ばくご、おれも、たぶんすきだ」
「てめぇおい!だからそれ分かって言ってんのかって!!」
ガシッと頭を引っ掴まれて、つか多分ってなんだボケこら!って怒鳴られる。けど、ふわっふわした精神状態の俺には全然怖くない。自覚してしまったらもう後には引けない。
「わかってる、俺すっげぇ嬉しい、し、俺も爆豪が欲しい」
「お……っまえ……!!!」
一発ボフ、と空中で掌を爆発させた爆豪に、ベリッと剥がされてすぐ傍にあるビルの壁に押し付けられてしまって。今までは本気じゃなかったんだろう事を思い知る。
「やっぱ無し、とかもう許さねぇぞ」
俺の顔のすぐ横に手を付いて、所謂壁ドン。こく、と小さく頷いた俺を見てにやりと笑った爆豪がカッコいい、なんて不覚にも思ってしまった。
「ばく……ッ!?」
顎を掴まれて、噛み付く様にキスをされた。こんなとこで、おれのファーストキス……まじか。
文句の一つでも言ってやろうと思って口を開いた所に、ぬるっと舌をねじ込まれてビクッとした。
「ちょ、ん……!?ば、やめ」
強引な深いキス。好き放題されて飲み込み切れなかった唾液が顎を伝って、それを拭う事も出来なくて。 なんだこいつ、まじ、なんだこいつ!
酸素が足りなくなってドン、と爆豪の胸を叩いたらようやく離れて行った。ひゅっと大きく息を吸って、目の前の顔を睨みつける。
「は、はぁ…おまえ、急にやめろよ……!」
「っせぇぼけ、今まで我慢してやったんだからこれくらいで喚くなや」
「あぁ!?」
理不尽過ぎる爆豪にびっくりして声がでかくなってしまったけど、仕方ないと思う。
「るせぇつってんだろ。おら帰るぞぼけ、歩ける様になったかよ?あー、それか」
「……?」
「さっきので腰砕けたか?」
「ッ……!?!?ばーか!!ぼけ!!歩けるわ!!」
ニヤニヤ笑いながら俺の腰をするりと撫でた爆豪の手をバシッと叩いて、サッと距離を取る。こいつこんな恥ずかしい奴だったかよ!?
警戒しまくる俺に、行くぞ、つって頭を軽く叩いた爆豪は俺を置いてさっさと路地裏を出ていってしまった。慌てて小走りで後を追う。
「てめぇは俺のもんだ、忘れんなよ絵藤」
振り返りながらそう言った爆豪は背中に綺麗な夕日を背負っていて、途端に視界がキラキラ輝きだす。
夕日が輝いてるのか、爆豪の金髪が輝いてるのか、分からない。フッと笑った顔がカッコいいとかは思ってない。
「それは俺もだし」
ぷいっと顔を背けて憎まれ口を叩く俺のどこが良いのか。
それでも、こいつとこれから先の未来を描いていけるのかと思うと胸が高鳴るのは、暫く内緒にしておこうと思う。
Fin.
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