舞い込んだ春嵐
部員数100人を超えるバスケットボールの強豪校、帝光中学校バスケットボール部。三軍まであり、一軍に上がることは容易くない。
しかし二年の春、入部から急激な早さで一軍加入した人物こそ黄瀬涼太だ。

「ーーーなんせあんたと一緒にやりたくて入ったんスからねバスケ部! 青峰っち!」

授業も終わり駆け足で体育館のドアを開けたタイミングで聞こえてきた声、噂に名高い彼をしっかりと認識したのはこの日が初めてだった。
見た目は流石モデルといった整った顔、すらりと伸びた手足に高い身長。これは騒いでしまうのも分かるかもしれない。それだけじゃなく二週間で一軍に上がってこれるバスケの才能もあるって、天は二物を与えたりするんだな。

「ねえねえ、呉羽ちゃん見た!? 黄瀬くん! すっごいかっこよかったねぇ〜。私近くで見たの初めて!」

確かに、私も近くで見たのは初めてだ。クラスが違えば関わることは少ないものだったりする。

「仲良くなれないかな〜」
「なれたらいいねー」

暫くは新しく入ったイケメンの黄瀬涼太という話題でマネージャーは盛り上がりそうだ。まあ、整っているとは思うがどうにも好きになれない。顔だけなら征十郎の方がかっこいい気がするし。
バスケ部は人気ではあるが、気難しい緑間にお菓子一筋の紫原、まるで小学生の青峰、不良の祥吾なので悲しいことに一緒にいるとあまり気になることはないものだ。最有力候補の征十郎も従兄弟ということで異性と認識することは殆どない。……というか私の中で一番は虹村先輩がダントツでかっこいいわけで他が気にならないというのが本当の理由。

「銀城ー! ちょっと来てくれ!」
「はい! すぐ行きます!」

名前を呼ばれたことに緩む頬を引き締めてから、虹村先輩のもとへ向かっていく。名前を呼ばれるたびにマネージャーになって良かったと思う。勿論、他にも理由はたくさんあるのだけども。
マネージャーになるきっかけをくれた征十郎万歳、様々なものだ。日頃の感謝も込めて帰りにお菓子でも買ってあげようかな。

「わりぃな、仕事中に」
「いえ、大丈夫です。それで何をしたらいいんですか?」
「黄瀬が新しく一軍に入ったろ。黒子を教育係につけてるんだが色々心配があってな。一応銀城も黄瀬のこと気にかけといてくれるか」
「分かりました」

何故よりによって私なんだ。虹村先輩からの頼みだから断らないが、これが他の人からだったなら速攻で断ってる頼みだ。みっちゃんとかあっちゃんの方がそう言うのは向いてると思うし、私よりもちゃんとしてくれると思う。

「仕事の片手間でいいからよ。頼むな」

虹村先輩に頼まれてしまえばやるしかない。こう言うのを惚れた弱みとでもいうのだろう。

その内知るとは思うが新しい仲間だし、私の名前を知っておいてもらわないと分からないことがあっても聞けないかもしれない。気はのらないが挨拶くらいはしておこう。

「黄瀬君、今いい?」
「え、はい」
「マネージャーの銀城呉羽です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「それと、君の教育係には黒子テツヤがつくことになったので何か分からないことがあれば黒子か私に聞いて下さい」
「教育係?」
「黄瀬君はまだ入って二週間なので一年生と同じ扱いをするように言われています。嫌かもしれないけれど我慢して下さい」
「なるほど」

ちゃんと分かってるのかこの人。一抹の不安は残るがやる事はやった、後は黒子に任せればいいだろう。

「あの、その黒子って人はどこにいるんスか…?」
「え、黒子? ……多分すぐ見つかると思う」

相変わらずどこにいるか分からない。黒子に限ってサボりはないだろうし、というかもうきていると思うのだけど。

「二軍よりキツイと思うけど練習、頑張ってね」

二軍から上がってきて、一軍の練習量の多さに驚く人は多い。この人に限っては二軍に降格なんてことはなさそうだけど。


「いやっスよ! 自分よりショボい奴に教えてもらうとか! 教育係変えて欲しいっス!!」

予想通りというかなんというか。黒子はパスに特化した選手なので単純にバスケの技術が上手いかと言われると首を傾げてしまう。
青峰に憧れて入部した黄瀬涼太に不満が溜まるのは分かるが黒子本人を前にしてハッキリ言うのは少し黒子が可哀想だ。

「虹村先輩、黒子のままでいいんですか?」
「なんとかなるだろ」

そんな適当な。文句があるわけではないんだけども。

「いいから言うこと聞け!」
「あいったぁ!!」

黒子はあれでいいのか、帰りに征十郎にでも相談してみようかな。
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