寝転ぶ陽炎
今日は日差しもちょうど良く過ごしやすい日だった。部活始め、虹村先輩に頼まれて祥吾を探しに行っている途中にそれは起きた。

「あの、ずっと前から好きでした。付き合ってください!!」

聞こえて来た声にぎょっとしながら慌てて隠れながら覗き見る。声の主は学年で人気の女の子らしいかわいい子だ、相手は……黄瀬涼太である。この光景は誰もが一度くらいは見たことあるのではないだろうか。それくらいここ帝光では黄瀬涼太の告白現場への遭遇率は高い。
一応部活中でもあるのだが、後で黒子が注意すると信じて大目に見ようと思う。私は注意しないかというのはまあ、これでも女子中学生だしそういうお年頃だし……単純に気になるのだ。

「あー…俺今付き合って子いてて、ごめんなさい」

まるで「天気がいいですね」とでも言うようにあっさりと断りの言葉を言い放った黄瀬涼太に言葉が出ない。それはあまりにも酷くないだろうか。どんな振り方をしても黄瀬涼太の勝手なのだがもっと心を込めるべきだと思ってしまう。いくらモテていたとしても相手は真剣に告白してるのだ。
上がってもいなかった好感度が下がったような気分になる。これ以上は見ているのも悪いし、早く部活に祥吾を連れて行かなければならないので見つからないように静かに立ち去った。


「ーーーいた」

いかにも部活サボってますみたいな雰囲気を出している祥吾を見つけたのはあの現場から離れて15分ほど経った頃だった。
制服のままチャラそうな子達と一緒に座っている姿はもう見慣れたものだ。

「あ? なんだ呉羽かよ……。いかねぇぞー」
「呉羽ちゃんいっつも迎えおつかれー!」
「祥吾も懲りねえよなぁ」

分かりきっていた答えではあるけれども腹がたってしまうのは仕方ない。部活をサボっても結局は連れ戻されるというのに祥吾は部活をサボるのはやめない。周りの子達に「悪いけど部活に連れて行かせてもらう」と伝えてからその場を離れた。
体育館への道を祥吾を引きずりながら歩くーーー今日は特に祥吾が重い気がする。いつもはもう少し引きずられるのに協力的なのだが今日の祥吾から全く部活に行く気が感じられない。これ以上粘っても時間がかかるだけだと考え、とりあえず話でもしようと腰を下ろす。

「ほら部活行くよ。虹村先輩に一発殴られるべき」
「なんだよそれ」

馬鹿にしたように笑う祥吾を殴りそうになる拳を抑えつつ、部活に行ってもらうためにも何故そこまでヤル気がないのか理由を聞いてみた。

「最近サボり過ぎ……なにかあったの?」

相手が祥吾だしそこまで言葉を選ぶ必要もないのだが、落ち込んでいる人には優しく接するべきだと教えられてきた。
せっかく人が友達の悩みを解決しようとしているのに、何か考えている様子もなく普通に無視する祥吾に我慢できず何時もより少しだけ力を強めて叩いた。

「ってぇ!! 呉羽てめぇふざけんなよ!」
「無視するのが悪いんだよ」
「あぁ!?……チッ…おい、お前あいつのことどう思う」
「あいつ?」
「さっさと答えろよ」

あいつ、サボる元凶の人なのかよく分からないが多分黄瀬涼太のことだろうか。……十中八九黄瀬涼太だな。
こんなのだが仮にも二年間の付き合いの友達だ。なんとなく祥吾の考えてることはわかる。単純でよかった。

「うーん、すごいと思うけど才能に関しては祥吾といい勝負じゃないの? そんなに気にすることでもないと思うけど……多分ね」

機嫌を悪くするのは嫌なので祥吾の事をさげるようなことは言わないように言葉を選んだが、思いのほか正直に答えてしまった。

「てめぇ……」
「ごめん」


その後は駄々をこねる祥吾を力任せに体育館までひきずりこみ、無事に先輩からの頼みを達成した。祥吾が先輩に一発殴られてるのをみると少しだけスッキリしたのはここだけの秘密だ。
体育館までの途中、変な目で見られたり多少引かれた気もするし私がドアを開けた時の黄瀬涼太の顔はすごかったけど虹村先輩に褒められたので全て気にならなかった。百人に嫌われるよりも虹村先輩に好かれる方が断然嬉しいのだ。


帰り道、祥吾と黄瀬涼太がうまくいくといいだけどと思いながらアイスを食べた。この季節にアイスはまだ肌寒かった。
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